本の紹介
東京都議会に「百条委員会」が設置され真相解明が始まる一方、政府が、農業競争力強化プログラムで卸売市場法を見直す提言を行ったことから、移転問題とあわせて「卸売市場の役割とは何か」という議論も始まっています。それを深める2冊の本が出版されました。少しでも高く売りたい生産者の思いを「卸」が、少しでも安く買いたい消費者の思いを「仲卸」が背負い、公開のセリで価格を決める卸売制度は、世界に誇る日本の文化そのものだと実感させる2冊です。
守るべき卸売市場の公的機能
不十分な豊洲の実態明らかに
三國 英實著
食料流通問題の新展開
1冊目は、農業・農協問題研究所前理事長の三國英實さんの『食料流通問題の新展開』。
同書は、1995年のガット(関税及び貿易に関する一般協定)からWTO(世界貿易協定)への移行によるグローバル化に対抗して、2004年の国連人権委員会での「食料主権」の採決、06年のWTO協定の挫折など、新自由主義が行きづまる一方、日本では、小泉構造改革から安倍政権に続く規制改革が猛威を振るうもとで、それに対峙(たいじ)する農民連の運動などを紹介しています。
99年の市場法「改正」によるセリ原則の撤廃、04年の卸と仲卸の規制緩和、商・物分離の容認、そして築地市場の豊洲移転を、国の卸売市場整備方針に書き込むなどその策定の狙いを、詳細に解明しています。
特に、この過程で「国内農業の衰退と、食品産業の巨大化」により、生産者・消費者間の流通・加工過程が「ブラックボックス化」した問題、それに拍車をかける大手量販店の「優越的地位の濫用」などの弊害も告発しています。
築地市場の移転問題では、土壌汚染問題の本質を解明しつつ、「豊洲移転」をてこに都内の11市場の再編、首都圏3300万人を対象にする拠点市場化、大手量販店や輸出入を対象にした24時間営業など、「競争力強化プログラム」が狙う「市場法改悪」の先取りであることも明らかにしています。
そして、土壌で汚染されている豊洲への移転は中止し、現在地再整備を提案します。
築地市場は、市場全体の取扱量が減るなか、鮮魚の取扱量は減らず、現物を見てセリを行い、価格を決める建値市場の役割を担うなど、残された卸売市場の公的機能がしっかり守られています。
一方、豊洲ではそれらが守られないことを明らかにしつつ、日本全体の卸売市場再編整備の基本的な課題を具体的に提案しています。
よりよい卸売市場制度を
つくり上げる好機と主張
細川 允史著
激動に直面する卸売市場
2冊目は、卸売市場政策研究所代表の細川允史さんの『激動に直面する卸売市場』。
細川さんは、卸売市場の現場に長くかかわってきた経験から、規制改革推進会議の提言に対する市場関係者の様々な声を紹介しつつ、守るべき卸売市場の公的機能とは何か、提言が言う「合理的理由のなくなっている規制は廃止する」とは具体的に何か、などを詳しく検討しています。
特に、全農改革で「農業者・団体から実需者・消費者に農産物を直接販売するルートを拡大推進する」ことは、卸売市場への影響が避けられないだろう、と指摘します。
そして、直接販売は、必要なものだけを契約することから、市場法が定める「受託拒否の原則」を出荷者が壊すことになるのではとも指摘します。
さらに、市場外流通の増加は、市場経由率の低下となり、少なくなった荷が大都市市場に集中し、地方市場の取扱量が減り、市場間格差が拡大する問題を指摘し、その打開策も検討しています。
その一つに、青森県南部町の町営卸売市場の取り組みを紹介し、「このような産地振興のための公設卸売市場もある。卸売市場の役割の奥深さを実感した…国の方でも農業振興の一つとして…配慮いただければありがたい」と結んでいます。
細川さんは冒頭、「私たちはいま、卸売市場維新の歴史的瞬間に立ち会っている…どんどん意見を発信し…より良い卸売市場制度をつくる絶好の機会と考えよう」と訴えています。
・『食料流通問題の新展開』(三國英實著、A5判、261ページ、函入上製、4500円+税)
・『激動に直面する卸売市場』(細川允史著、A5判、150ページ、並製、2000円+税)
注文先 筑波書房 TEL 03(3267)8599
(新聞「農民」2017.3.6付)
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