「農民」記事データベース20170102-1245-09

地域に新風を吹き込む
若い養鶏農家たち

養鶏場「みたぼら農園」経営
伊豆 より夏(か)さん(27)
(長野・飯伊農民組合、阿南町在住)

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今年は酉年です
鳥インフルで深刻な打撃
安い卵価・高騰続ける飼料代

 新春のお喜びを申し上げます。

 薬剤フリー飼育 平飼い有精卵を

 私は、長野県の南、下伊那郡の阿南町で両親と3人で、小さな養鶏場「みたぼら農園」を営んでいます。小さな養鶏場だからこそできる自家配合飼料で、薬を一切使わない薬剤フリーの飼育、平飼い有精卵にこだわった生産をしています。

 この文章を書いているころ、養鶏業界は鳥インフルエンザ一色に染まっていました。野鳥から始まった今回の鳥インフルエンザは、青森、新潟の養鶏場へと広がりをみせ、私の住む町では役場から消石灰の配布、家畜保健衛生所からは厳重警戒の要請が出ています。

 両親がIターンで始めた養鶏場を引き継いで2年、代表は父から私に代わりましたが、家では相変わらず両親と私の3人で採卵鶏700羽と繁殖和牛5頭を飼育しています。

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菜の花畑の前に立つ伊豆さん

 親元就農してからこれまで、日本の養鶏業界には幾度にもわたって鳥インフルという嵐が吹き荒れてきました。万一発生すれば周辺の農家に卵と鶏の出荷移動制限がかけられ、その期間は発生源となった農場での殺処分と消毒作業が完了してから10日間。日本の養鶏農家の平均飼育羽数が3万羽を超えている今、その間出荷も廃棄もされず溜(た)まっていく卵の量を想像しただけで、鳥インフルがどれほど農家に深刻な打撃を与えるかおわかりいただけるでしょう。

地鶏や国産飼料にこだわり
養鶏と地域農業への熱い思い

 生き残りかけて 選択を迫られる

 「卵は物価の優等生」と言われて久しいです。実際に卵は、安価で良質なたんぱく源としてこの国の食と健康を支えてきました。その一方で養鶏農家は、一向に上がらない卵価と高騰を続ける穀物価格のはざまで、生き残りをかけた選択を迫られました。それは薄利多売の大規模化か、高価格帯のブランド卵への転換のどちらかでした。どちらの波にも乗ることのできなかった中小規模の養鶏農家は徐々に姿を消し、今では30万羽以上を飼育する大規模企業養鶏が日本の鶏卵生産を支えています。

 ブランド化に成功した農家も、楽な道を歩んできたわけではありません。「卵は安いもの」という長年にわたって培われた意識が壁となってきました。安心で安全な質の高いものを作るには、相応のコストがかかるという当たり前のことが、卵となると突然「安くて当然、安全で当たり前」に取り替わってしまうのです。

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自家配合飼料で育ちました

 これには、養鶏業界の抱えてきた事情もあります。鳥インフルが騒がれるようになってから、農家は以前にも増して防疫対策に追われるようになり、野鳥はもちろん、関係者以外の出入りを厳しく規制してきました。その結果、鶏卵生産の現場は消費者の目の届かないものになったのです。

ごく自然にSNSで伝える

 暗闇のなかにも確かな新しい光

 それが変わりつつあると感じたのは、ここ数年のことです。私の地域には、養鶏で新規就農してくる若い農家が増えつつあります。彼らは、地鶏や国産飼料にこだわった飼育をしながら、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)で日々の作業や自分の養鶏と地域農業への思いを、ごく自然に周囲に伝えています。これは今までになかった動きです。今後そうした農家が増えていけば、養鶏の現場を知る若い世代が増え、生産者と消費者の間に新しい風が吹き込まれていくのではないかと期待しています。

 鳥インフルエンザの影響を引きずったまま始まった2017年酉(とり)年ですが、この暗闇の中にも、地域に生きる若い農家は確かに新しい光を見いだしています。


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長野・小諸市 布施和子
 
奈良・山添村 藤森妙子

(新聞「農民」2017.1.2付)
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2017年1月

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