この村で文旦作って
子育てするぞ!
25周年迎えた
土佐文旦産直協同組合
(高知)
産直が後継者を育てる力に
水質ランキング第1位に輝く清流、高知県仁淀(によど)川。その上流、土佐市積善寺(しゃくぜんじ)の集落に、土佐文旦産直協同組合(以下、産直組合)はあります。土佐文旦産直センターとして発足し、2016年に創業25周年を迎えました。発足時には5戸だった会員農家は、いまや14戸に増え、さらにそのうち9戸で20〜40代の後継者が育っています。収穫期を間近に控えた12月上旬、産直組合組合員の若い生産者たちを訪ねました。
急斜面切り開き
こんもりとした里山の稜線近くの急斜面を埋め尽くすように、文旦の果樹園が広がっています。がっしりした文旦の木には、南国のまぶしい太陽の光を浴びて、黄色く色づき始めた文旦が鈴なり。50度近くはあろうかという急斜面を軽い足取りで登りながら、「文旦は水はけのよい土と、日当たりが大事。だからこそ、この地域の先輩たちはわざわざこんな急斜面に文旦の畑をつくったんですね」と言うのは28歳の後継者、玉木竜造さんです。母方のおじいさんから、9年前に文旦の栽培を引き継ぎました。
隣りの木の樹冠が足元にあることも珍しくない急斜面での文旦作り。多くの果樹園ではその急斜面の地下に、水不足のときのかん水などのためにパイプが敷設されており、豊富な地下水をポンプでくみ上げ、スプリンクラーで散水できるようにしてあります。資材搬入や収穫した文旦を運び出すためのモノレールや、土砂崩れ防止の石積みもあり、園地ごとにこうした設備を一つ一つ整備しながら、文旦をつくり続けてきた先人たちの苦労が伝わってきます。
「僕らのおじいさんくらいの、文旦を作り始めた世代の人たちは、すごい苦労だったと思います。でも今は生産者の高齢化が進んで、条件の悪い園地から耕作放棄が始まっていて、あと5〜6年もすれば条件のいい園地でも作れない農家がどんどん増えてくるのでは」と、玉木さんは危ぐしています。
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土佐文旦産直協同組合の生産者の皆さん(一部)。前列右が矢野さん、前列左が田村さん、後列右から3人目が玉木さん |
荒らしたくない
矢野竜一さん(40)は、こうした条件の良い園地を、設備や木も含めてまるごと借りて文旦栽培を始め、今年で2年目の収穫期を迎えようとしています。もともと兵庫県出身の矢野さんは、高齢化した親戚の園地を継いで文旦作りを始め、「農家として生活していくには、もう少し経営面積を広げたい」と思っていたところに、この園地を借りる話が持ち込まれました。
産直組合理事の藤田洋生さんは、「じつは組合として何か特別な後継者対策や農地のあっせん事業をしているわけではないのです。でも幸いにして矢野君や玉木君のような若い就農者が入ってきてくれて、そのまじめな働きぶりを見込んで、農地を荒らしたくないという地主農家の思いとがうまくつながってきているんですね」と話します。
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果樹園内には資材や収穫した文旦を運ぶモノレールが敷設されている。矢野さんは畑の貸し主の農家から、こうした果樹園の設備も含めて経営を引き継いでいる |
まともな価格で
では、なぜ若い文旦生産者が増えているのか? 玉木さんも、矢野さんも、そして親元で就農して7年目の田村慎也さん(35)も、口をそろえて「文旦をつくれば、生活していけるだけの収入が得られると展望できたから。自分の力で、自分で働いた分が、結果として目に見える農業はおもしろい」と、言い切ります。
就農後に結婚し、4歳を筆頭に3人の子育て真っ最中の玉木さんは、「でも市場出荷だけだったら、とてもそうは思えなかった。まともな価格で、安定的に出荷できる産直組合があるから、ここで子育てもしていけると確信できた」と言い、「文旦作りでの励みは?」との問いにも、ズバリ「通帳を見るとき!!」(一同大爆笑)。
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山の上の文旦畑から積善寺集落を見下ろす。稜線に近くの日当たりのよい急斜面はみな文旦畑 |
代表の西森幹展さんは、「亡くなった農民連元代表常任委員の小林節夫さんの熱心な働きかけで、全国の新日本婦人の会の皆さんとの産直が始まって25年。今では生協にも出荷するようになり、年間約2万ケースを扱うまでになりました。やはり産直はこの地域の文旦生産を守る大きな力。TPPなど困難も多いからこそ、若い人がこのふるさとで農業を続けていけるよう、産直運動も引き継いでいきたい」と話してくれました。
(新聞「農民」2017.1.2付)
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