「出荷先を自由に」は酪農壊す
酪農が大企業の食いものに
農民連釧根地区協議会議長
石澤 元勝さん(酪農・厚岸町)
今回の生乳流通の「改革案」は、「指定団体制度の廃止」という言葉こそ入りませんでしたが、実際には指定団体制度を骨抜きにする内容です。生産者としては、改良の余地が一部はあるとしても、基本的に今の指定団体制度を守ってほしい。
安売り競争に
「改革案」では、「生産者が、出荷先を自由に選べるようにする」と言いますが、本当にそうなったら、日本の酪農は大打撃を受けます。
牛乳は、毎日生産される一方、非常にいたみやすくて、すぐに乳業メーカーに引き取ってもらわなければならないという特性があるため、どうしても売り手である酪農家の立場が弱くなります。弱い立場の酪農家が指定団体に一つにまとまって出荷することで、価格交渉力を守ろうというのが、指定団体制度です。
さらに指定団体には、比較的乳価の高い飲用乳、バターやチーズなどになる安い乳価の加工用など、違う乳価の牛乳を、北海道なら北海道で一つの“財布”にまとめて入れ、すべての酪農家に平等の乳価にして払う、という役割もあります。また需給・生産調整をしているのも指定団体です。
こうした協同組合としての役割を全部壊して、「自分で自由にお売りなさい」となったら、安売り競争になって、農家の所得は増えるどころか、小さな酪農家は立ち行かなくなってしまいます。大規模酪農だけは生き残ったとしても、結局、日本全体の生乳生産量は減ってしまい、消費者にとっても、新鮮でおいしい牛乳が飲めなくなるばかりか、いずれは価格も高いものになってしまうでしょう。
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搾乳作業中の石澤元勝さん、由記子さん夫妻 |
農協攻撃と一体
今回の生乳流通の「改革案」は、農協攻撃と一体になって出されてきたところに、いっそうの危険性を感じています。
今回は見送られましたが、規制改革推進会議の当初案のようにクミカンも廃止され、さらに農協が信用事業をできなくされれば、農家は銀行など一般の金融機関から借金せざるをえなくなります。その上、今回の生乳流通「改革」のあおりで、経営が厳しくなって借金が返せなくなったときには、農地が取りあげられてしまう危険性も十分考えられます。
まさに、生乳・乳製品の流通だけでなく、酪農全体、農村地域全体が、企業のもうけの対象にされようとしているという危機感を、ひしひしと感じます。とくに北海道では酪農は主要産業で、地域経済も、ひいては地域社会も成り立たなくなる心配があります。
酪農家の声聞け
とにかく今回の「改革案」はめちゃくちゃです。酪農家も、農協も、こんな方向で「改革」してくれなんて、誰も言っていません。365日休みなく牛の世話をして、少しでもいい牛乳を生産したいとがんばっている酪農家の声を、現場に来て、しっかり聞いてから、議論を始めてもらいたい。
(新聞「農民」2016.12.12付)
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