規制改革推進会議の暴走を止めよ
クミカン制度廃止は協同の経済を
理解できない「下げ司すのかんぐり」
北海道大学名誉教授 太田原 高昭
〈特別寄稿〉
規制改革推進会議農業ワーキンググループの提言に対し、太田原高昭・北海道大学名誉教授に、北海道独特の「組合員勘定」制度(クミカン)を中心に特別寄稿をいただきました。この問題は、同推進会議の最終意見からは削除されたことになっています。しかし、推進会議側は「信用事業、クミカンについてはフォローアップの中で取り扱う」と説明しており、依然として火種は残ったままです(編集部)。
農協法改定が一段落した後も規制改革推進会議の暴走が止まりません。矢継ぎ早に出されてくるその提言は、最初の「農業改革に関する意見」がやや抽象的であったのに対して、課題の的を具体的に絞り込み、本来のねらいをより露骨に出してきているのが特徴です。
クミカン制度廃止の狙いは
その規制改革推進会議が今度は北海道の農協に定着している「組合員勘定」制度(クミカン)を即刻廃止せよと言いだしました。クミカン制度は、農協が組合員の農家に対して営農や生活の資金を前貸しし、収穫後の農産物の販売代金で決済する金融制度です。
農協が発足しクミカンが出来るまでは、北海道の農家の多くは秋の収穫時までに収入がないために絶えず資金不足に陥り、「仕込み商人」と呼ばれる産地商人兼高利貸しに頼らざるを得ませんでした。そして決済ができないと担保の土地を取られ、小作に転落しました。
クミカン制度はこうした農家の窮状を救ってきた相互金融のモデルであり、最も協同組合らしい事業の一つです。便利であるために借金が膨らむ組合員がいないとは言いませんが、それを一般化するのは明らかに誇張であり、北海道の農家をバカにするものです。
規制改革推進会議は、クミカン制度によって農家は農協に対する借金でがんじがらめにされ、農協以外に農産物を販売する自由を奪われていると言っているようです。ここにも「協同」が「独占」にしか見えないところに彼らの限界があります。
これがウソであることは、以前からクミカン制度を採用していない十勝の士幌農協をみればわかります。士幌農協は農家の利子負担をなくすために農家ごとに1年分以上の営農資金を積み立て、クミカンに頼らなくてもよい資金循環をつくってきたのですが、それによって農家は農協以外にも出荷するようになったかというととんでもない。士幌農協は販売も購買も100%が農協利用という模範農協として知られています。
それは士幌農協の組合員が、農協に結集する協同経済が一番得だということを長年の経験で実感しているからであって、クミカンを実施している他の農協でも基本的に変わりません。協同の経済というものを理解できない者の「下司(げす)のかんぐり」に付き合う必要などありません。
こうしたデマを流してまでクミカンを止めさせようという彼らの狙いは、言うまでもなく単協段階の信用事業を取り上げ、農林中金に譲渡させようというところにあります。しかしこの例で明らかなように単協段階の信用事業こそ組合員と農協の最も強い絆です。
規制改革推進会議は売国機関
このような見当違いを連発する規制改革推進会議とはそもそも何なのか。それは今やTPPのISDS条項とつながって、外国資本の要求を自国の政府に呑(の)ませるというとんでもない役割を負う機関になっています。TPP協定はその25章「規制の整合性」で、各締約国に外国人投資家の意見を聞くための「調整機関」を設けよとしています。ISDSによる訴訟を起こさなくてもよいようにあらかじめ「調整」するための機関でしょう。
日米二国間の交換文書には、日本の調整機関として「規制改革会議」の名が挙げられており、「日本国政府は規制改革会議の提言に従って必要な措置を取る」と明記されています。
参議院の質疑でこのことを明らかにした共産党の大門実紀史議員の質問に対して、安倍総理はそれを否定せず「意見は聞くが(政策に)反映させるのは義務ではない」と答えています。
義務でないのなら政府は余計なことをする必要はないし、JAグループは断固拒否すればよい。それだけでなく、TPP自体が漂流を始めた中で、規制推進改革会議のような売国的な機関は日本にいらないと高く声を挙げるべきときです。
(新聞「農民」2016.12.12付)
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