規制改革推進会議の「農協改革」提言
TPPとともに葬り去ろう
関連/TPPノー 医療労働者も
暗黒・乱暴・お粗末――
究極の農協・農業・地域つぶし
政府の規制改革推進会議農業ワーキンググループ(農業WG、座長=金丸恭文フューチャー社長)は11月11日、「農協改革」と「牛乳・乳製品の生産・流通改革」に関する提言をまとめました。
ポイントは、全農・農協が行っている共同購入と共同販売を“独占”だとか“農家の自主性を害するもの”と決めつけ、農協事業の解体を迫っていること。農家の自主的な協同組合である農協に対する不当な介入・妨害であるとともに、地域と農業を支える「岩盤」の役割を果たしている農協を解体し、地域と農業を食い物にすることがねらいです。
何を解体しようとしているのか――。
生産資材の共同購入やめろ
提言は全農・農協が行っている肥料や農薬、農機などの共同購入を「生産資材メーカーの販売代理行為」(金丸座長)と決めつけ、全農に事業からの撤退を求めています。これには3つ問題があります。
(1)農協系統が手数料をとっていることを「高値の原因」と決めつけ、手数料の廃止を強要していることです。同じように商社や流通業者に手数料の廃止を要求したら、「気は確かか」と言われるのがオチです。
(2)営農指導と結びついた「予約の積み上げ」などによって、農協系統の共同購入は肥料で74%、農薬で60%、農機で50%のシェアを占めています。こういう共同の力がメーカーとの価格交渉力の源ですが、提言はこれを無にしろと言っているのです。農家や単位農協がバラバラに交渉したら、高い資材が押しつけられることは必至です。
(3)提言は、全農の資材製造・購買部門を1年以内に譲渡・解体し、「少数精鋭」の新部門に移行しろと強要しています。これは、アグリビジネスが全農の事業をつぶして新規参入したいという要求に応えるとともに、将来、全農を株式会社化させ、アグリビジネスが乗っ取ることをねらったもの。
委託販売から全量買取販売に
提言は、農産物の販売に力を入れろと強調し、金丸座長は次のように説明しています。
「全農は農業者のために、中間流通(卸売市場、米卸業者など)中心の販売体制を改め、消費者や需要家に直接販売できるよう販売力を強化するとともに、強力な自前の販売網を構築すべき。このため、全農自らがリスクを取り、委託販売から買取販売へ1年以内に事業転換すべき」(農業WG、11月11日議事録)
これは、農業と流通の実態を何も知らない者の冗談か絵空事、政府の諮問機関のまともな提言とはいえないシロモノです。
(1)卸売市場や米卸業者などを通さず、全農が自力で消費者や需要家に直接販売しろというのは、ムチャクチャな話です。中央・地方卸売市場だけで1000市場、青果の売り上げで3兆円ですが、これを全農が自力でやれとでも言うのでしょうか! (まんざら冗談ではないようで、昨年10月6日の農業WG提言では、卸売市場法の廃止、米卸業者などの抜本的な整理合理化を要求)。
(2)こういう大風呂敷の一方で、提言の落とし所は「委託販売から買取販売へ1年以内に事業転換すべき」というもの。
保存のきかない青果物も“一緒くた”にして全農が全量買い取りをやればどうなるか――。持てあまして価格暴落の引き金になるか、全農がリスクを避けるために農家から買いたたくか、いずれにしても「1円でも安く」を求める大手流通資本の餌食になることは必至です。
「第2全農」を脅し文句に
しかも、提言は、資材購入も農産物販売も「1年以内」に事業転換しろと強要しています。実現不可能な“机上の暴論”を押しつけ、実現できないのは全農にやる気がないからだといって、国に「第2全農」を作れと要求する――これは、ヤクザも顔負けの恫喝(どうかつ)です。
ある研究者は規制改革推進会議を「権威をかさに、神のように振る舞う経営コンサルタント」と批判していますが、もっと言えば「関係者の意見も聞かずに、妄想だけをふくらませたタチの悪いシロウト経営コンサルタント」です。こんな者たちに農業と食糧、地域の未来をあずけるわけには絶対にいきません。
地域農協 3年後に半減?
提言は農協の信用(金融)事業つぶしをねらい、地域農協が「農産物販売に全力をあげられるようにするため」と称して、「信用事業を営む農協を、3年後を目途に半減させる」ことを強要しています。
しかし、単位農協の平均的な部門別損益は、信用・共済が5・7億円の利益を生んでいるのに対し、営農指導を含む経済事業は2億円の損失になっており、信用・共済事業の利益で「総合農協」が維持されているのが実態です。
「シロウト経営コンサルタント」の言いなりになれば、農協そのものがつぶれてしまうことは必至です。
アベノミクスの空吹かし
なぜ、こんな提言が出てくるのか。
「一人は万人のために、万人は一人のために」が協同組合の原点ですが、「1%が99%から奪う」を原理とする新自由主義に毒された経営者や学者ばかりを規制改革推進会議のメンバーに選んだのは安倍政権です。その一方、農協改革を主題にしながら、農協関係者はゼロ。「欠席裁判」、「暗黒裁判」です。
しかも安倍首相は11月7日の推進会議で「全農改革は農業構造改革の試金石。提言を私が責任を持って実行する」と、ハッパをかけました。
もともと農業構造改革は、TPP発効を前提に、その受け皿として検討されてきたもの。いま、TPPの発効が見通せなくなる中、農協を標的に「アベノミクスの空吹かし」をしているのが実態です。
しかも同会議は、TPP協定25条「規制の整合性」で、外国人投資家の意見を聞くための「調整機関」と位置づけられており、日米二国間の交換文書には「日本国政府は規制改革会議の提言に従って必要な措置を取る」と明記されています。いわば外資を代弁する売国機関です。
TPPとアベノミクスが漂流を始めた中で、TPPも規制改革推進会議もいらないと声をあげるときです。
*「牛乳・乳製品の生産・流通改革」や准組合員規制などについては続報します。
グローバルアクション
TPPノー 医療労働者も
医療団体連絡会議は11月17日、国会前で医療労働者によるTPP反対のアクションを200人を超える参加で行いました。全米看護師連合会(NNU)の呼びかけで、米国、オーストラリア、ニュージーランドなど7カ国の労働組合や諸団体の医療従事者によるTPP阻止に向けたグローバルアクションの一環です。
全日本民医連の藤末衛会長は、「世界の健康保険が崩されようとしている。誰もが健康的な医療を受けられるようTPPに反対しよう」と呼びかけました。医労連の三浦宜子書記長は、「人の命に関わる医療従事者として、医療をもうけの対象にすることに反対です」と訴えました。
(新聞「農民」2016.11.28付)
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