6次産業化
地域の宝
次郎柿を守り、伝えたい
規格外品も加工で特産物に
愛知
豊橋市 (株)石巻柿工房
原田 愛子さん
生産者の高齢化と価格低迷に押され、次々と切り倒される地域特産の次郎柿を、なんとかして残したいと奮闘している農家のお母さんが、愛知県豊橋市にいます。地域の柿農家4軒でつくった株式会社「石巻柿工房」代表取締役の原田愛子さんです。石巻柿工房の主力商品「柿あん」は、農林水産物の加工品の出来栄えを競う「優良ふるさと食品中央コンクール」でも、最高賞の農林水産大臣賞を受賞。豊橋農民組合の会員でもある原田さんを訪ねました。
セミドライ柿
柿農家に嫁いだ原田さんでしたが、直接農業に携わるようになったのは7〜8年前。ある日、義父の確定申告を見て、その農業収入の低さに驚き、「お父さん、これで300万円もする農業機械が壊れたら、私たちも農業継いでいけない。今のうちにちょっと私にも農業やらせて」と、経営の一部を引き継いだのが始まりでした。
原田さんの住む石巻地域は100年以上続く次郎柿の産地で、気候と土壌に恵まれ、おいしい柿を生産してきました。しかし近年は生産者が高齢化し、いいものでも1箱100円という低価格。周囲では柿の木を切ってしまう農家が相次いでいました。
「なんとかこの地域資源の次郎柿を、次世代に伝えていけないか」と思案するなかで、少しでも収益性を上げるには…と考えた原田さん。まずは柿の木1本、1年分の収穫を、まるごと販売する「オーナー制」と、インターネットでの販売を始めました。
土づくりや栽培技術についてももっと知りたいと、近所の柿農家を誘って、県の農業普及所から指導員を招いた講習を開いたりと、仲間作りにも取り組みました。
さらに、もともと自家用に作っていた、軽く天日干しして冷凍したセミドライ柿を商品化できないかと、フットワーク軽くさまざまな講習会に参加。販路を模索していくなかで、熱意を共有できる6次産業化(=生産者自らが加工・流通・販売するなど、経営を多角化する農水省主導の取り組み)プランナーとも出合い、2012年に「石巻柿工房」を立ち上げました。
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柿あんの加工風景(原田さん提供) |
同時に、6次産業化の認定を申請し、認定取得したことで、国の支援制度なども活用でき、その支援で乾燥機を導入。本格的にセミドライ柿の生産が始まりました。完熟柿のペーストも商品化し、和菓子や料理の材料として、根強いリピーターのお客さんができています。
一番の課題だった販路は、ホテルなどの料理人や和菓子屋を訪ねたり、さまざまな商談会に出展したりして地道に拡大し、今では加工業者や食品卸会社などにも広がっています。
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次郎柿をスライスして、絶妙な具合に半乾燥し、冷凍したセミドライ柿。なかでも最高品質のものを詰め合わせたのが柿あん。生柿に近いコリコリ、パリパリとした食感と、上品な甘さが特徴。お菓子や料理の材料にも。 |
“適正価格”で
しかし原田さんは、「いま以上にたくさん売って、たくさんもうけよう、ということではないの」と言います。「もともと私たちが加工に取り組んだのは、二束三文にしかならなかった規格外品を活用して、味はどこにも負けないと自負しているこの次郎柿のおいしさを、もっと多くの人に知ってもらいたかったから」と原田さん。
もうけ主義に走ることなく、今も会社発足時の約束を守って、原料の柿は柿工房の4人の農家から、規格外品であっても“適正価格”で買い取り、売れる見込みのある分だけを加工するやり方を守っているそうです。
いま、原田さんが地域の次郎柿生産を守るために温めている次のアイデアは、「兼業農家でも柿生産を続けやすいよう、栽培方法をもう少し効率化したい」ということ。「いまの柿栽培は、せん定も収穫も、脚立を担いで作業がたいへん。福岡県の農業試験場で低樹高ジョイント仕立てという栽培方法を開発していて、ぜひそれをこの地域にも取り入れられないかと考えているのよ」と、目を輝かせる原田さん。
「柿生産を守って、地域を元気にしたい」――その熱い奮闘は、今日も続いています。
(新聞「農民」2016.9.26付)
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