「農民」記事データベース20160815-1226-06

食品安全委員会が答申まとめる

BSE検査 来年から全廃

関連/TPPを批准させない! 全国共同行動―8・20キックオフ集会


“人への影響無視できる”に
消費者団体から異論も

画像  内閣府の食品安全委員会が6月、現在48カ月齢超のと畜牛に義務付けているBSE(牛海綿状脳症)の検査を、「全廃しても人への健康影響は無視できる」とする答申案をまとめました。厚労省は来年にも検査を廃止する方針です。

 BSE対策の柱は大きく言って、3つあります。一つは、BSEに感染した牛を見つける「BSE検査」。二つは、原因物質である異常プリオンが蓄積しやすい脳や脊髄、脊柱、内臓などの「特定危険部位」を、牛のと畜時にしっかり除去すること。三つは、牛の骨や内臓からつくられた肉骨粉を飼料として与えないという「飼料規制」です。

 今回の答申案に盛り込まれたのは、「BSE検査の廃止」だけですが、同時に諮問された「特定危険部位」の扱いについては、さらなる緩和に向けて議論が続いています。同委員会は、「飼料規制は継続する」「一斉検査の廃止後も、と畜前の生体検査で運動障害や知覚障害などBSEを疑う症状がある牛のBSE検査は続ける」ので、一斉検査を廃止した場合でも「リスクは非常に小さく、人への健康影響は無視できる」と結論付けましたが、消費者団体などからは懸念の声も上がっています。

 BSEは人にも感染します。人にうつったときの病名を「変異型クロイツフェルト・ヤコブ病」と言い、世界で報告された患者数は202例と少ないものの、発症すると治療方法がなく、死に至る病気です。

 また近年は、イギリスから広がった「定型BSE」とは別のタイプの「非定型BSE」の発生も確認されています。発生原因は自然発生的なものと推測されていますが、L型と呼ばれる非定型BSEは高い感染性があるとの研究もあり、いずれにしても非定型BSEについては未解明な部分がきわめて多いのが実態です。

BSE(牛海綿状脳症)

 牛の病気の一つで、BSEプリオンと呼ばれる異常タンパク質が牛の脳や脊髄などの「特定危険部位」に蓄積し、脳組織がスポンジ状になる。ごく微量の異常タンパクの摂取で感染する可能性があり、発症すると異常行動、運動失調などを示し、死に至る。BSEに感染した牛の脳や脊髄などを原料とした肉骨粉が、他の牛に与えられたことが原因で、イギリスなどを中心に牛にBSEの感染が広がり、日本でも2001年9月の1頭目以降、2009年1月までの間に36頭の感染牛が発見された。


緩和OKの結論先にありき
究明途上での廃止は尚早

生活協同組合パルシステム東京
原 英二さんに聞く

 予防原則なし

 BSE問題を機に、「関係行政機関から独立して、科学的知見に基づき客観的かつ中立公正にリスク評価を行う機関」として食品安全委員会が発足したわけですが、同委員会でも「初めに結論ありき」の安全性評価が行われていることに変わりはありません。

 ヨーロッパではリスク評価と同時に、「予防原則」(重大な結果や取り返しのつかない影響の恐れがある場合には、科学的に因果関係が十分証明されていなくても、規制などの予防措置をとるべき、との考え方)が導入されましたが、日本では予防原則はまったく導入されませんでした。その悪い部分が顕著なのが、BSE問題の安全性評価だと思っています。

 なぜかと言うと、BSEは、発見されたのが1980年代の終わりから90年代という比較的新しい伝染病であると同時に、感染して発症するまでの期間が長いことから、研究に時間がかかり、「まだわからないことが多い」「不確実性がまだ高い」病気だからです。

 非定型BSE

 とりわけまだよくわかっていないのが、「非定型BSE」の問題です。

 今までのBSE対策は、検査にしても、特定危険部位の除去にしても、飼料規制にしても、定型BSEを前提につくられてきました。しかしそれで非定型BSEにも有効だったのかという検証は、いまだにきちんとはされていません。

 同委員会は、非定型と定型の違いについて、電気泳動像しか強調していませんが、違いはそれだけではありません。異常プリオンの牛の脳内での蓄積部位は、定型は延髄のかんぬき部分ですが、非定型は大脳になります。つまり現在の延髄を検査する方法では不十分で、大脳の異常プリオンを捕捉できる検査方法が確立されなければ、真にサーベイランス(感染症を調査・監視すること)もできないはずですが、この研究も進んでいません。

 さらに、非定型BSEは、牛が死ぬ直前まで症状が現れません。同委員会は、一斉検査せずとも歩行困難牛など症状のある牛を検査すればよいとしていますが、これでは非定型のBSEは見つけられません。

 今回、同委員会は緩和できる理由として、BSEの発生が減っていることをあげていますが、すべての型のBSEを捕捉できない検査方法で、「もうBSEはほぼなくなった」と言うのは、早すぎると思います。

 牛から人に感染

 牛から人への感染性も未解明な部分があります。定型BSEが人に感染すると変異型クロイツフェルト・ヤコブ病になることはわかっていますが、非定型BSEが人に感染するとどのような症状になるのかは、まだ解明されていません。

 クロイツフェルト・ヤコブ病は、症状だけを見るとアルツハイマー病や他の認知症などと見分けがつきにくく、専門でない医師であれば誤った診断を下している可能性もあると思います。いまのところ最終的には死後に研究解剖する以外に判明する方法がなく、今の日本の体制では、クロイツフェルト・ヤコブ病のサーベイランスの発生データは過小評価されているのではないでしょうか。

 輸入拡大のため

 BSE対策は、2004年に行われた最初の緩和からずっと一貫して、アメリカからの輸入を拡大するための緩和だったと言えると思います。しかしアメリカからすれば、まだ不十分でしょう。今回は見送られた「特定危険部位」の緩和が残っているからです。アメリカから枝肉の状態で輸出するには、「脊柱」を「特定危険部位」から外すことがどうしても必要なのです。

 アメリカ産牛肉の安全性には他にも問題があります。飼料規制が不十分であることや、農場での飼料規制の順守検査も抜き打ちでない(銃社会のため予告せずに行くと検査員が危険にさらされる)こと、BSE検査も症状のある牛から一部の牛が抜き取り検査されているだけで、実効性は疑わしいと言わざるをえません。

 やはりBSE対策は、「結論先にありき」で十分な検証もないまま緩和すべきでないと思います。


TPPを批准させない! 全国共同行動
―8・20キックオフ集会
日 時 8月20日(土)午前10時半〜午後3時
会 場 お茶の水・明治大学
    「リバティータワー・1011号」
参加費 1人500円
連絡先 STOP TPP!! 市民アクション
(連絡先・全国食健連 TEL 03・3372・6112)

(新聞「農民」2016.8.15付)
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2016年8月

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