ジョモ・K・スンダラム氏の講演
「TPP協定は人々を
“豊か”にするのか?」
から
5月30日都内
マレーシア出身の経済学者、ジョモ・K・スンダラム氏が講演会「TPP協定は人々を“豊か”にするのか?」で行った報告の要旨を紹介します。
推進派は利益を誇張
コストを過少に評価
TPPは、参加型の民主主義的なものではありません。参加12カ国中、ベトナムを除いた11カ国の国民は、TPPを支持していません。
アメリカ通商代表部(USTR)の資料では、「TPPは、2030年までに米国の国民所得を1310億ドル増加させる」とし、大きな経済成長がもたらされるという印象を与えています。米国は、大きな輸出の伸びが見込まれることになっていますが、実際には、輸入も同時に増えることになるのです。
米国ではロビイストがTPP交渉に影響を与えています。大半が大企業と、酪農、食肉輸出業など特別の利益団体関係者です。6300ページのTPP文書の多くは利害関係者が起草してそれを構成したものです。
10年後の成長はわずか0.1%
新試算での利益は小さい
TPP推進派は、利益を誇張し、コストを過小評価しています。
これまでの試算のやり方である応用一般均衡(CGE)モデルは、完全雇用、貿易収支・財政収支・所得分配は不変ということを前提にした非現実的なものです。
最新の試算によれば、貿易自由化の直接的な利益、関税の自由化から得られる利益は、農務省経済調査局の調査で、10年後にわずか0・1%の成長にすぎません。
国際貿易委員会(ITC)も新しい試算を出しました。15年後に0・16%の成長という非常に小さいものです。
また、ピーターソン国際経済研究所によっても、15年間で1・1%の成長で年わずか0・06%です。TPPで非貿易措置のなかに利益を見込んでおり、結局それは小さなものです。
国家間の格差が拡大し
労働者の購買力も低下
勝った国内でも敗者が生まれる
私たちの試算(タフツ大学)では、ピーターソン研究所が採用した貿易モデルを使いつつ、マクロ経済グローバル政策モデルを活用しました。それによれば、加盟国の多くで純雇用が喪失し、すべての国家間で格差が拡大します。労働者の購買力が低下し、国内需要が弱まり、成長を遅らせることになります。経済(純収入)が縮小するのはアメリカ(マイナス0・5%)と日本(マイナス0・1%)です。
そこには、国と国との間で勝者と敗者が生まれ、勝った国のなかでも敗者が生まれます。TPPは、少数の国だけに利益をもたらします。
その一つは、知的所有権の問題です。これは独占的な力が働き、とくに薬品メーカーには、大きな利益をもたらします。
知的所有権の強化で、医薬品の値段が上がり、特許の期限を際限なく延ばすことになります。厚生行政のコストも大きくなります。価格の上昇は避けがたく、福祉・医療から人々を遠ざけます。
企業利益がなくなれば
ISDSで何でも提訴可能に
国家の司法権否定される
次に、ISDS(投資家対国家紛争解決)条項の問題です。国家を越えた新しい裁判権が生まれます。
TPPにはあいまいな表現が多く、大企業が政府を超える力をもつことになります。企業が政府を訴えられても、政府が企業を訴えることはできません。将来の見込める利益が損なわれるということ(逸失利益)ですら提訴の理由になります。つまり、企業に利益がなくなれば何でも訴えられるのです。
これは、国家の司法権が否定されてしまうことです。こうして外国投資家による提訴が増え、賠償、補償が爆発的に増えます。
外国投資家への賠償金の配分は、巨大企業が約73%、個人富裕層が12%、そして大企業が8%
となり、彼らが利益を得ることになります。
また、政府が国民の健康、安全、環境を守ろうとすると、企業が政府を訴えることもできます。
さらに、外国投資家が国内投資家よりも大きな力をもつことになります。
法律をつくって温暖化ガスを減らそうとすると、企業の利益が損なわれるということで国が訴えられる可能性があります。ISDSで過去に米国が敗訴した例はありません。
TPPができれば米国がルールをつくることになります。大企業がのさばって国民の利益を損なうことになります。TPP推進派の宣伝に負けてはなりません。
(新聞「農民」2016.7.18付)
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