食の安全に敏感になった
変わりつつあるアメリカ人の意識
詩人アーサー・ビナードさん
都内で行った講演から(要旨)
詩人のアーサー・ビナードさんが都内で行った講演(5月4日)で、アメリカでの食の安全に対する意識の変化について語りました。その要旨を紹介します。
「遺伝子組み換え」の言葉を理解して
アメリカでも食の安全について新しい動きがあり、遺伝子組み換えについても大きく変わったと感じています。
私は半年から8カ月に1回のペースで故郷のミシガン州に帰ります。帰った際には、近所のスーパーに足を運び、アメリカ人がいかに体によくないものを食べさせられているかを見に行っていました。
しかし、最近になって様子が少し変わってきました。特に違うのは、遺伝子組み換え食品の扱いです。以前は、アメリカで、「遺伝子組み換え」と言っても、多くの人は、「知らない」という状況でした。
私も、遺伝子組み換え食品・作物のことや、モンサント社の世界戦略などを、日本に来て初めて知りました。日本から米国を見た方が、よくわかることがいっぱいありました。
ところが、最近の米国では、一般の国民が「遺伝子組み換え」という言葉を理解できるようになりつつあります。州ごとに行われる遺伝子組み換え食品の表示を求める運動を通じて、多くの人が目覚めてきました。ここ数年で、一般の市民、消費者の意識も変わってきました。
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講演するアーサー・ビナードさん=5月4日、東京都大田区 |
今までなかった病気・アレルギーが出て
変わってきた理由の一つは、健康被害の問題があります。今までありえなかった病気やアレルギーがアメリカ人に現れ始めています。そして、不妊治療のクリニックが、街中のあちらこちらに、まるでファストフード店のように増えています。
また、「モンサント社の除草剤ラウンドアップを全米中にまいているのはおかしい、体に絶対に影響がある」と、多国籍企業にたたかれながらも一生懸命に伝えようと運動している人たちがいます。
さらに、時間的な経過も、健康被害と一致しています。1990年代に遺伝子組み換え食品が食卓に登場し、人間の体内に入るようになった時間軸と、健康被害が増え始めた時間軸が重なり合っているのです。その因果関係はわかりませんが。
こうして原因不明の病気にかかっていた人でも、食事から遺伝子組み換え食品を取り除くと見事に改善されたという事例が出始めています。すべてオーガニック(有機)食品に切り替えて、健康的になったという人々が発言し始めています。まだマスメディアには登場しませんが、こうした人々がいろいろなところで発言し、それが積み重なって、これまでの流れを変えるところまできたと思います。
健康被害に敏感な親たちが原動力に
先ほど、スーパーの話をしましたが、最近では大手のスーパーでも「Non GMO」(非遺伝子組み換え)のラベルが多く目につくようになってきました。表示義務はありませんが、たたかいのなかで広がってきました。とくに子どもたちへの健康被害に敏感な親たちが社会を変える原動力になっているのです。そしてそういう人々が今の米国を変えようとしています。
(新聞「農民」2016.6.20付)
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