日本の酪農を崩壊させる
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(1)乳価交渉力の強化 (2)広域需要調整による販売力強化 (3)集送乳コストの削減 |
生乳は、毎日生産される一方、腐敗しやすく貯蔵性がないという特性から、短時間のうちに乳業メーカーに引き取ってもらう必要があり、酪農家が価格交渉をする際に不利な立場に置かれています。
このため、指定団体をつくり、より多くの酪農家から販売委託を受け、価格交渉力を強化して乳業メーカーと対等に交渉する必要があります。
国は、指定団体を通じて加工原料乳生産者補給金を交付することにより、このような取り組みを後押ししています。
牛乳の価格競争は輸入飼料依存も深刻化させる原因に |
規制改革会議の指定団体廃止方針は、酪農や生乳取引の実態を全く無視したもので、「生産量の増加につながる可能性もある」どころか、大手メーカー・スーパーの買いたたきを許し、さらにTPPの受け入れ条件づくりをねらったものです。
TPPでは、ナチュラルチーズなどの関税が撤廃されたのに続き、発効7年目以降にはアメリカ、ニュージーランドなど乳製品輸出国との関税撤廃の再協議が義務づけられています。
指定団体制度廃止は、TPPによる輸入拡大の露払い、関税撤廃後の酪農政策の青写真にほかなりません。
規制改革会議は、「競争することが生産者にも利益になる」と言いますが、これは酪農の実態を見ない議論です。生乳取引では、スーパーが圧倒的に強く、価格もここで決められます。生乳を加工したりパッケージする乳業メーカーも、多くが大企業で立場は強く、酪農家は指定団体にまとまるからこそ、今の乳価が守られているのです。
立場の弱い酪農家をバラバラに分断して、団結を奪う――これは一昨年の農協つぶしとつながる話でもあります。本来、農家の共同出荷・協同販売は、立場の弱いものが集まることで、強い取引先に負けないようにしようものです。
搾乳作業中の石沢元勝さん、由紀子さん夫妻 |
じつは、こうした指定団体制度は、農民運動の成果でもあります。牛乳・乳製品は新鮮さが命で、酪農の始まった当初は、大消費地に近い産地ほど高い乳価になっていました。しかし、それでは酪農全体が発展しない、高く売れる飲用乳も、安く買いたたかれる加工用乳も、大きな地域で一つの財布にまとめて、収益は酪農家みんなで分け合うことにしようと、この共同販売の制度がつくられたのです。それを、TPPを見込んだ大企業の利益拡大のためにつぶす――これが規制改革会議の攻撃の本質だと思います。
近年の酪農家の離農はかつてないほど深刻で、生産量も減り、一時はバター不足などと騒ぎになったくらいです。指定団体がなくなれば酪農家は先行きがますます見えなくなり、後継者も、新規就農者もいなくなるのは明らかです。
消費者にとっても、近隣の新鮮な牛乳が飲めなくなります。今は加工向けが主用途の北海道や九州の牛乳が、都府県に飲用乳として出荷され、飲用乳が主な都府県の酪農は大打撃を受けてしまうことが懸念されます。
そして、バターやチーズはどんどん輸入を増やす。TPPでさらに無制限に輸入できるようにする――それが安倍政権と規制改革会議のねらいだと思います。
[2016年6月]
農民運動全国連合会(略称:農民連)
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