TPPで医療はどうなる保団連政策部事務局 寺尾正之さん
公的保険制度崩壊の恐れ、
TPPで医療はどうなるのか。「TPPテキスト分析チーム」による報告会で、全国保険医団体連合会政策部事務局の寺尾正之さんが行った報告の要旨を紹介します。 |
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「TPPで医療は崩壊」。東京・渋谷で(2015年11月17日) |
TPP協定では、バイオ医薬品の市場拡大を見込んで、協定発効後10年後に再協議するほか、TPP委員会の決定に従って再協議することも規定され、新薬のデータ保護期間が長期化する可能性があります。
こうして製薬大企業の独占的利益を保障する一方で、ジェネリック(後発)薬企業の参入に対する新たな障壁が出現する危険があります。
一方で、各締結国は、「次のものを、特許を受けることができる発明から除外することができる」としており、「人間又は動物の治療のための診断方法、治療方法及び外科的方法」を挙げています。
しかし、「除外することができる」という規定であり、締結国の判断で、特許保護の対象にすることも可能になります。日本では、人間の診断・治療・手術方法は特許の対象から除外されています。
特許保護の対象となった場合、特許権料が発生することによって、先端医療技術などの医療費が高騰し、保険適用すると医療保険財政を圧迫するため、公的保険の適用外に留め置かれることが懸念されます。多額の保険外負担が生じ、保険外の負担を支払うことのできる人か、民間医療保険でカバーする余裕のある人しか、最先端の医療が受けられなくなります。民間医療保険に加入できるのは一部の高所得者だけで、多くの患者が公平に最新の医療を受ける権利を奪うことになります。
外国企業や投資家が投資先の国や自治体が行った施策や制度改定によって、不利益を被ったと判断した場合、その制度の廃止や損害賠償を投資先の相手国に求め、国際仲裁法廷(世界銀行の投資紛争解決国際センター等)に提訴できる国際法上の枠組みです。
医療分野で主に想定されるのは、日本政府の施策によって、民間医療保険の販売に影響を与えた場合や、「特区」での株式会社による医療機関経営です。
日本では厚生労働省が例外的に認めた混合診療として、先進医療(2015年12月現在、108種類)があり、民間の先進医療保険が販売されています。先進医療に加えて4月からは「患者申出療養」が始まります。
厚労省が先進医療や患者申出療養の医療技術等について保険適用を進めることによって、アメリカの保険会社が先進医療保険の売れ行きが落ち込み不利益を被ったとして、施策の変更(混合診療に留め置くこと)を求めることや、保険業法で定めている民間医療保険の商品認可・販売に関する規制緩和を行うようISDS条項を使って国際仲裁法定に提訴しないとも限りません。
アメリカ企業の政府への圧力が強まることや、ISDS条項が存在するだけで、その発動を回避するため、政府の公共施策に抑制(萎縮)効果が生じることが懸念されます。
国際仲裁法廷の裁量とTPP委員会の解釈に委ねられている範囲もあり、政府が行った規制措置が誤りであると認定される可能性があります。
次号(1212号)は、5月2、9日付の合併号(カラー、8ページ)です。次々週の発行はありません。
[2016年4月]
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