「農民」記事データベース20160418-1210-09

ワサビづくりで
地域を元気に!

福島市佐原地区
佐原わさび生産組合

 福島県福島市の佐原(さばら)地区で、平均年齢70歳を超える有志6人が集い、共同で沢ワサビをつくる取り組みが進んでいます。「ワサビで地域を元気に!」と奮闘する6人を訪ねました。


平均年齢70歳超
人生経験が強力な武器

 日本の伝統的な香辛料、沢ワサビ(別名、本ワサビ)。「和食」にはなくてはならない名脇役で、静岡県の伊豆半島、長野県の安曇野地方などが産地として有名です。じつはこの沢ワサビ、日本原産で、年間を通じて水温が11〜13度に保たれる湧水や渓流に恵まれた場所では昔から自生しており、九州から北海道まで、日本全国で栽培されています。

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きれいに整地され、ワサビが育つ現在のワサビ田

 吾妻山系のふところに抱かれた佐原地区を流れる鍛冶屋川の源流でも、たった1戸の農家の手によって、明治時代から沢ワサビの栽培が始まり、代々、守られてきました。しかし生産者の高齢化に加えて、原発事故の影響が重なり、栽培を中断。栽培の継承が課題となっていました。

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荒れていたワサビ田の復元作業(2014年7月 佐藤宏三さん提供)

 そこで、「この福島のワサビ栽培を途絶えさせてはならない。なんとか地域の財産として、引き継いでいけないものか」との一念で、2014年4月、佐原地区に住む有志6人で「佐原ワサビ生産組合」が結成されました。

みんなでやるから苦労もやりがい

 メンバーは、多士済々。組合長を引き受けた佐藤栄一さんは元JA職員。「ワサビ田をつくらないかという話があるんだけど…」と、栄一さんがいの一番に相談し、「たいへんだけど、やってみっぺ」と応えたのが、酪農家で農民連会長も務めた佐々木健三さんです。経理と営業担当の佐藤宏三さんは、元大手電機メーカーの営業マン。それに、元農機具屋さん勤務で、5年前から定年帰農して国産小麦づくりに取り組む尾形正次さんや、健三さんの親せきで農家の佐々木邦明さん、同じく農家の佐藤四郎さんが加わり、最強の布陣ができあがりました。

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前列左から右に、佐藤宏三さん、佐藤栄一さん、佐々木健三さん、後列左から佐々木邦明さん、尾形正次さん

 販路の開拓も自分たちの手で

 といっても、ワサビ栽培については、全員が素人。実際には問題発生の連続でした。休耕していたワサビ田は、草ボウボウ。夏の暑いなか、水を抜いて手で草を抜き、小石を入れ直して畝(うね)をたて…。苗作りも1年目は芽が出ず、やっとワサビ田に移植でき、順調に育ってきたと思ったら今度はサルに株を掘り返され…。わからないことや困ったことに出合うたびに、インターネットや本で調べ、全員で話し合い、知恵を出し合って、乗り越えてきました。

 「このメンバーで、それぞれの現役時代の得意分野や、人生の蓄積が生かされたからこそ、乗り越えられた。みんなでやるから、苦労もやりがいになる。集団の力です」と、栄一さんは言います。

 昨年の夏以降には、少量ですが収穫と出荷も始まり、現在は毎週、収穫作業に追われるようになりました。販路拡大も、宏三さんを先頭にそば屋や料亭、スーパー、直売所などに営業に回り、自分たちで広げています。「やっと取引先を開拓しても、いざ出荷となったらまだ育ってなかったりして。ハハハ。でも佐原では、沢ワサビを出荷するまでにかかる期間は1年半ほど。このサイクルで20アール分のワサビを通年で出荷していくには、1カ月で25キロくらいの生産量は必要だから、そうなるとのんびりもしていられないんですよ」と、宏三さんの“檄(げき)”が飛びます。

 肝心のワサビの品質は、そば屋さんやすし屋さんなどプロの料理人にもとても好評で、「あとは値段をどう決めていくか、出荷ルートをどうするかが、目下の頭の痛い問題」だそうです。

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収穫した沢ワサビを調整する佐藤栄一さん(右)と佐々木健三さん

 畑ワサビなら誰でも作れる

 しかし、年間を通じて常に11〜13度という水温の湧水に恵まれた条件でないと栽培できない沢ワサビは、売れるからといってむやみに規模拡大はできません。そこでいま、6人が新たに挑戦しているのが、畑ワサビの栽培です。

 沢ワサビと同じ苗を、半日陰のやや傾斜地の畑に植えると、すりおろして食べる根は大きくならないものの、ピリリとした、おいしい葉や花茎が収穫できます。「これなら、林地の下や空いている畑でも作れるから、いずれ地域のみんなで生産することになっても大丈夫」と宏三さん。なにしろ、「ワサビ作りで地域を元気にしたい」というのが、6人の当初からの願いだったのです。

 そして全員が口をそろえて言うのが、「みんなで力を合わせて、一つのことをやる、それが楽しいし、やりがいがある」ということ。6人が集まると、とにかく話が尽きないそうで、健三さんは、「いまは農村でも集落での共同作業も減り、高齢ともなるとさらに孤立化してしまう。そういう今だからこそ、こういう地域での共同が大切になっていると痛感する。農業の担い手は青年だけではない」と、万感の思いを込めて強調しました。

(新聞「農民」2016.4.18付)
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2016年4月

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