ガレキだらけのほ場を復活
農地を次世代につなぎたい
宮城・東松島で営農再開した
法人組織「めぐいーと」を訪ねて
収量低下・米価暴落・さらにTPP
負けずに地域守る先頭に
宮城県沿岸部では、津波により甚大な被害を受けました。その中でも、農家は再び生産に立ち上がっています。復興が進む東松島市で営農を再開した株式会社「めぐいーと」の武田惠喜社長(61)と菅原一郎副社長(68)に話を聞きました。
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笑顔で語る武田社長(左)と菅原副社長 |
生産者6人で力合わせ再開
同社は2013年の11月に6人の生産者が集まって設立されました。14年から作付けを再開し、16年度は水田90ヘクタールと大豆33ヘクタール、大麦8ヘクタールのほかハウスでミニトマト、露地で長ネギやイタリア野菜を合わせて1ヘクタールの生産を計画しています。
被災直後は、農地はガレキとヘドロに埋まり、トラクターも海水につかりました。海岸に生えていた松の木が、田んぼに横たわり、「本当に作付けができるのかと不安がぬぐえなかった」と武田さんは当時を振り返ります。
菅原さんは津波で車ごと自宅前まで流されたといいます。「とっさに庭木につかまり『これで助かった』と思いました。車が沈んでいき、どこからか、助けを求める声が聞こえてきたのを覚えています」
しかし甚大な被害を受けても、「農地を荒らすことはできない」と再開を決意します。営農再建支援制度を活用するために、生産法人設立の話し合いをスタートさせました。「関係者の合意を得ることが最大の関門でした。なかなかまとまらず、一度は話が流れたのですが、何としても営農を再開させたいとの思いで、13年末の設立にこぎつけました」と武田さんは話します。利用権は全て会社に移し、「みんなで一緒にやろうというスタンス」です。
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新設した米の150トン貯蔵タンク2基。奥にはもう1基増設用のスペースが確保されている |
不安もあるが生産続けたい
営農再建支援制度を活用し総事業費約10億円かけて新設・導入したライスセンターや育苗ハウス、トラクターなどの機械も15年度から稼働。再整備の終わったほ場で作付けを開始しました。しかし「ほ場整備による地力の低下で収量が明らかに落ちていました」という状況で、さらに低米価が重なりました。
武田さんは「米価の先行きが見通せず、かなり不安です。今は施設(市の所有になっている)の利用料が無償なので何とか経営していますが、このままでは経営が維持できません。TPPも「対策をとるから影響なしなんてありえません。日本で米を作る人がいなくなってしまうのでは。異常気象が多いのも心配です」と、今の農政に不安を募らせています。
一方で、「こうした施設を預けてもらっていることは名誉なことですし、地域を守る先頭に立ってがんばりたい」と強い意欲も持っています。6人のほかに正社員として4人雇用していますが、うち3人は30歳台の若手です。「若い人たちだけで耕作できるようにしていくことも、私たちの責務だと思っています」と次世代の担い手づくりも進めています。
16年もほ場の復興・再整備は続きますが「イタリア野菜の販路開拓なども進めて、何とかこの土地で農業を続けていきたい」という思いで、生産に奮闘しています。
(新聞「農民」2016.3.14付)
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