「農民」記事データベース20160229-1203-06

COP21
(国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議)
成果と課題

CASA専務理事
早川 光俊さんの講演

関連/「パリ協定」のポイント

 国連の気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)が昨年12月、フランス・パリで開催され、「パリ協定」が採択されました。COP21は、京都議定書の第2約束期間が切れる2020年以降の世界の新たな枠組みをどうつくるかが問われた、きわめて重要な会議でしたが、「パリ協定」はその使命をどう果たしたのか――。地球温暖化問題に詳しい早川光俊さん(CASA=地球環境市民会議専務理事、弁護士)の、公害地球懇(公害・地球環境問題懇談会)の報告集会での講演を紹介します。


歴史的合意“パリ協定”採択
課題残る「実効性」「目標引き上げ」

 COP21では、法的拘束力のある「パリ協定」と、法的拘束力はないが政治的な合意であるCOP決定の二つが採択されました。「パリ協定」は、地球温暖化問題では、気候変動枠組み条約(1992年)、京都議定書(1997年)に続く3番目の国際条約です。

 パリ協定の評価

 「パリ協定」は、京都議定書と違い、国別の削減目標の達成に対して、法的義務がないなどの問題点もありますが、現在の国際状況のなかでは大きな成果で、歴史的な合意と言ってよいと思います。

 その一つには、世界の187カ国が国別目標を提出し、温室効果ガス排出量第1位の中国、2位のアメリカ、3位のインドを含めて、すべての国が削減する必要性に合意したのは、非常に大きな第一歩でした。

 それから、目指すべき温度目標がきちんと書き込まれた、ということも重要です。今回は抑えるべき温度が明確化され、そのための削減量も明確になりました。そして、今世紀後半には排出量を実質ゼロにするという、きわめて困難な目標が合意された、これも大きな成果だったと思います。

 しかし、現在出されている各国の削減目標を足し合わせても、「2度目標」には足りず、いまのままでは達成できないのも事実です。そのためパリ協定では、目標の引き上げのため、今後、各国の削減目標を5年ごとに見直していくプロセスも合意されました。

 そして187カ国が国別目標を提出し、150カ国の首脳が集まったことで、地球温暖化問題に取り組む機運が醸成された、これも非常に大きかったと思います。

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パリ協定採択の瞬間。中央はファビウスCOP21議長(フランス外務大臣)、その左がフィゲレス条約事務局長

 今後の課題

 くり返しになりますが、今の各国の目標を積み上げても、「2度目標」には達しません。これをどう引き上げていくかが、今後の大きな課題です。

 今回のCOP21では、たしかにアメリカに配慮して内容が緩められた側面はあると思います。今年はアメリカ大統領選挙の年です。もし大統領が気候変動を否定する共和党候補になると、かつてブッシュ大統領が京都議定書から離脱したようなことも考えられ、このCOP21で合意してしまわないと、合意の機会を逃しかねないとの思いが世界の合意を促進しました。

 またアメリカは、「共和党が多数を握る上院での批准手続きを経ずに、オバマ大統領の任期中に大統領権限で通すためには、新たな国際義務を負うことはできない」と主張し、「義務化」を定めた表現がどんどん削られました。でもそうしなければ、合意はできなかった。議長国フランスのオランド大統領が「皆が100%を求めれば、誰もがゼロしか手にできない」と言いましたが、そういう国際状況でもあったのです。

 パリ協定はまだ始まり、第一歩です。実効性には課題があります。これからこれを実施させるための世界のルールを具体的につくり、各国にきちんと削減を実施させていかなければなりません。

 日本の課題

 日本の削減目標は世界でも最低水準で、これをただちに引き上げなければなりません。しかしそもそもこの削減目標の基礎となった「エネルギー基本計画」と「長期エネルギー需給見通し」の改定がまず必要です。

 電力供給のうち20〜22%を原発でまかない、CO2を大量排出する石炭火力発電を26%に増やす、その一方で再生可能エネルギーは22〜24%しか見込まないという、このエネルギー計画を変えていかなければなりません。こうした日本政府の姿勢をどう変えるか。私たち日本の市民にとって、まさにこれからが正念場です。


「パリ協定」のポイント

●産業革命以前からの世界の気温上昇を、「2度未満を十分に下回る水準」を目標とし、「1・5度未満」への抑制を努力目標として明記

●この目標を達成するため、今世紀後半に人間活動による温室効果ガスの排出を、実質的にゼロにする

●先進国、途上国を問わず全ての国が削減目標をつくって提出し、その達成のために国内で削減措置をとることを義務付け

●各国は国別目標を5年ごとに提出し、国際的な進捗(しんちょく)確認を行う

●国別目標は、それ以前の目標を上回るものとし、その国ができるもっとも高い水準でなければならない

●気候変動による防ぎきれない「損失と被害」があることを独立した条項を立てて認め、国際的な対応の仕組みを強化する

●先進国が途上国に資金支援する義務を明記

●他国で行った排出削減を、自国の目標達成に充てる国際オフセット制度の活用を奨励

●世界の排出量の55%を超える、55カ国以上の国が批准した日から30日で発効する

(新聞「農民」2016.2.29付)
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2016年2月

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