WTO対抗行動に参加して
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農民連国際部 岡崎衆史副部長のリポート
交渉打ち切り迫るアメリカ
ドーハ協議 継続で合意できず
昨年12月半ばに開かれた世界貿易機関(WTO)第10回閣僚会議にあわせて、国際農民組織ビア・カンペシーナは3日間にわたってケニアのナイロビ市内でケニアのNGOとともに討論会や抗議デモを行いました。農民連から岡崎衆史国際部副部長が参加しました。岡崎副部長のリポートを紹介します。
途上国と対立して
WTOは第10回閣僚会議をナイロビで昨年12月15日から5日間開催しました。TPPや欧米のTTIPなど巨大自由貿易協定を貿易政策の主軸とするアメリカは、途上国の開発を重視するドーハ・ラウンドは時代遅れとして打ち切りを迫り、TPPなどが盛り込む新たな課題について交渉を開始するよう要求。ドーハの継続を求める途上国側と対立し、合意できませんでした。
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ナイロビで開かれたWTO閣僚会議(WTOのウェブサイトから) |
ドーハ後、何十もの国が数百もの協定に調印し、WTOの枠外の貿易構想が標準となりました。アメリカのフロマン通商代表が会議直前の12月13日、英紙フィナンシャル・タイムズへの寄稿で、TPPやTTIPなどが進展する一方で、ドーハ・ラウンドが停滞したことを指摘し、ドーハからの「解放」を呼び掛けました。アメリカがドーハ・ラウンドの打ち切りを公に求めたのは初めて。同国は、会議での意味ある合意を阻止し、ドーハ・ラウンド打ち切りのために画策しました。
採択された閣僚宣言は、多くの国がドーハ・ラウンドを支持したとして途上国の主張を記す一方、再確認しない国があったとして、アメリカ、日本、欧州連合(EU)など先進国の主張も併記しました。「他の交渉課題を望んでいる国がある」との文言も盛り込まれ、今後新たな交渉課題が設定されることに道を開きました。
アメリカは今後のWTO交渉について、多数の課題について一括合意するドーハ・ラウンド型を否定。投資など自国の利益になる新たな課題に個別に取り組む場と位置づけ、ナイロビで「新しい時代への道が始まった」と宣言しました。
撤廃時期を先送り
ナイロビではまた、約束済みの途上国向け特別セーフガード(緊急輸入制限)の設置について協議継続を確認しただけにとどまりました。2013年末までに撤廃を約束した先進国の農産物輸出補助金については、撤廃時期を2020年末まで先送り。インドなどが食料安全保障のための公的備蓄政策を恒久的に認めるように求めていた問題でも、協議継続を約束しただけでした。
WTOは自由貿易の名の下に各国の国内産業を破壊してきたことから世界の民衆の怒りを招き、途上国政府が先進国政府に対して反発。2001年に始まったドーハ・ラウンドは、途上国の要求を不十分ながらも受け入れ、「開発」を主要議題に据えました。しかし、対立は続き、交渉は停滞してきました。
「開発課題」の墓場
会議の結果について、国際NGOの「フォーカス・オン・ザ・グローバル・サウス」は、「第10回閣僚会議はドーハ・ラウンドの『開発課題』の墓場として記憶されるだろう」と指摘しました。
(つづく)
(新聞「農民」2016.1.25付)
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