「農民」記事データベース20160118-1197-03

効果を過大評価し、影響を
過小化した欺まんに満ちた
「TPP影響試算」に抗議する

2015年12月25日
農民運動全国連合会会長 白石淳一


 一、政府は昨年12月24日、TPP発効による経済効果試算を発表した。TPP発効後、実質国内生産(GDP)が2・6%押し上げられ、農林水産分野は国内対策によって維持され、食料自給率も下がらないという耳を疑う内容になっている。

 農林水産分野への影響を過小に描き、政策効果を恣意(しい)的に膨らませた欺まんに満ちた悪質な「試算」を発表した安倍内閣に対し強く抗議するとともに、「試算」の撤回を要求する。

 一、そもそもTPPは「大筋合意」の段階にすぎず、協定文の完成にさえこぎつけていない。仮に発効しても関税撤廃品目の拡大や撤廃時期の繰り上げを行うための協議が義務づけられており、さらに参加国が拡大する動きもあり、試算する前提が定まっていないのが現実である。アメリカでさえ、国内の影響試算は16年5月以降となるとしている。

 こうしたなかで「影響試算」は、反発する国民をおさえつけ、「国益にかなう最善の結果を得ることができた」とする安倍首相の開き直りとごまかしを糊塗(こと)するための「目くらまし」であり、夏の参院選対策のための「政治的試算」にすぎない。

 一、「大筋合意」で農林水産物の関税撤廃率は81%におよび、重要5品目でも3割が関税撤廃される。「試算」は、牛肉・豚肉、乳製品など輸入品と競合する品目の価格が下落し、1300億円〜2100億円減収するが、「対策」によって再生産は維持できるとし、米についてもアメリカ・オーストラリアからの輸入枠と同量の国内産米を備蓄米に買い上げるから需給と価格への影響は「ゼロ」としている。よって農家所得は確保され、生産量、生産額、カロリー自給率も維持されると結論づけているが、とんでもない。

 米でいえば、輸入量と同量の国内産米を買い上げるとしても、安い主食用外米が外食・中食需要と競合することは明白であり、国内価格への影響は避けられない。

 牛肉・豚肉については、経営安定対策事業を法制化し、補てん率を9割にしたとしても赤字経営には変わりなく、経営は維持できない。従来の経営安定対策事業は、関税収入を財源にしてきたが、関税引き下げによって失われる財源が手当てされる保証はない。

 一、「試算」には関税をほぼ全面的に撤廃した野菜や果実・ジュースは入っていない。数%の関税撤廃による価格への影響は少ないというが、関税引き下げ率が流通マージンに転嫁すれば、外国農産物を使う動機付けとなり、国産農産物への影響は免れない。米や麦などの土地利用型の作物がTPPで打撃を受けて野菜などに転換されれば、たちまち過剰となって価格の下落は避けられない。

 一、政府がどう言いつくろおうが、どんな対策を講じようがTPPによる影響を払しょくできないことは明らかである。これまでも農産物の輸入を自由化するごとに「対策」なるものを実施してきたが、今日の農業の実態をみれば、いかに効果がなかったかは明瞭である。

 農林水産業を維持・発展させるためには、TPP交渉から離脱するとともに、輸入農産物をコントロールすることや、欧米並みに生産費と販売価格の差額を補てんする価格保障制度、家族経営を軸に、国をあげた後継者・担い手対策に踏み出すことである。農民連はそのために全力でたたかう決意である。

(新聞「農民」2016.1.18付)
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2016年1月

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