「農民」記事データベース20160104-1196-01

みんなでやれば苦労も楽しい!

福島県南会津町湯ノ花集落の
はつ恋漬け


在来種の赤カブは地域の宝
農閑期生かして漬物づくり

画像  日本でも有数の豪雪地帯として知られる福島県南会津町舘岩地区(旧舘岩村)。標高600メートルの静かないで湯の里、湯ノ花温泉に、女性を中心に、地域に伝わる在来種の赤カブを共同で栽培し、特産の漬物に加工している地域グループがあります。「湯けむりの郷(さと)」の皆さんです。

 「(漬け込み作業は)とにかく寒いよ! でもみんなでやれば、どういうわけだか、楽しいのよ。氷点下20度のなか、沢水でカブの泥を落とすんだけど、洗ってるそばから表面が凍っちゃう。でもそれも笑い飛ばしながら、汗をかきかき、カブを漬けるの」――こう話すのは、グループの代表を務める星恵さん。

 グループは現在、女性5人、男性2人の計7人。温泉民宿や大工、床屋など兼業農家がほとんどで、50代で最年少の恵さんをはじめ60代、70代の皆さんが元気にがんばっています。

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左から星里子さん、稲葉公代さん、星キミ子さん、星清信さん。メンバーは他に、星恵さん、大山栄子さん、星和昌さんの計7人

 「湯ノ花は温泉地なのに、ここならではのお土産がなくて、何か欲しいと思っていたんです。でも夏は民宿をやっていたり、農作業があったり、みんなとにかく忙しい。でも雪の積もる冬は時間ができる。そうだ、ここでしかできない特産の舘岩カブを使って、赤カブ漬けを作ろう!」と、集落全戸(約80戸)に声をかけて始まったのが10年前のことでした。

 荒れていた畑をグループで借り、舘岩カブは連作を嫌うため、ソバと1年ごとに交互に栽培しています。春の石拾い、夏の草刈りを経て、夏の終わりに種をまき、11月に収穫。収穫したカブは雪の降る前に200キロごとに分けて土の中に埋めておき、漬け込むたびにひと山ごとに掘り出しながらひと冬かけて、合計3トンを漬け込みます。

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冷たい沢水での泥おとし。この後、加工場で本洗いします

 使うのはカブと酢と塩と砂糖のみ、添加物は一切使わず、昔ながらの漬け方で漬けています。「おいしさには自信があった」(恵さん)と胸を張るとおり、徐々に販路も県内の有名スーパーチェーン店や道の駅、集落内の商店や民宿などに広がり、今では「もうこれ以上、受注を増やせない」というほどに、会津の冬の味覚として定着しています。

画像  今年の冬は異常なほど降雪が遅れていますが、いつもは雪のなか、極寒のなかの漬け込み作業。お母ちゃんたちのその原動力は…何と言っても「働いたら、ちゃんと収入になる!」ということ。農作業も漬け込み作業も、働いた時間はきっちり時給計算しています。「ほんの少しだけど福島県の最低賃金より高く設定しているのが自慢。機械や加工所の賃借料など翌年の精算経費を残して、余った分はボーナスとしてみんなで分けるんです」と言うのは、星里子さん(南会津農民連会員)。みんなで食事会や旅行に行くのも大きな楽しみです。

 「農家だけでなく民宿も女性にはなかなか自分の自由になるお金がないことが多い。でもこうしてちゃんと働いて得た収入があるから、自信が持てるし、家族も応援してくれます」と恵さんは言います。「誰かや、どこかのまねをして、事業を大きくしようとか、もっともうけようとは思いません。これからも湯ノ花らしい私たちのやり方で、大切なものを見失わずに、楽しく赤カブを作っていきたい」――お母ちゃんたちの笑顔が、輝いています。


ここでしか赤くなならない

旧舘岩村特産 舘岩かぶ

画像  舘岩カブは、なぜか旧舘岩村や桧枝岐村でしか赤くならないと言われ、平安時代にもたらされたという伝説が残る歴史の古い在来種です。表皮が赤紫色で、中身はキメ細かく、甘味があります。

 種子は今でもそれぞれの家で自家採種しています。「種取りなんて簡単ヨ。周りにアブラナ科が植わっていない畑に、良い出来のカブを残しておいて、春にサヤになったら種をとるだけ」と、恵さん。

 最近ではネコブセンチュウの被害が大きく、栽培が難しくなっています。「昔はここは麻の産地で、麻の後作に赤カブを作れば、ネコブなんて出なかった」と「湯けむりの郷」メンバーの稲葉公代さんは言います。

(新聞「農民」2016.1.4付)
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2016年1月

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