「農民」記事データベース20151123-1191-05

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漁民にサケをとらせろ!

関連/集会での漁民の発言

 岩手県漁民組合に加入する漁民を中心に小型漁船漁業者100人は11月5日、盛岡地方裁判所に「さけ刺し網漁不許可取消・許可義務付請求訴訟」を提訴しました。提訴に続いて盛岡市内で開催された集会「サケ刺し網漁を実現する会」には70人が参加。サケの刺し網漁を実現させる決意を固め合いました。今回の集会には県内のマスコミ各社が多数取材し、関心の高さをうかがわせました。
(岩手県農民連 岡田現三)


“浜の一揆だ” 許可求め行政訴訟

岩手 小型漁船漁民100人たち上がる

 宮城、青森では禁止されてない

 東日本大震災の津波で大きな被害を受けた岩手県の小型漁船漁業者は、漁船を手に入れ、漁具を整えて漁に臨み、それぞれの時期に旬の魚をとって年間の生計をたてています。毎年苦労するのは9月〜11月。とれる魚が激減する時期です。唯一たよりになるのがサケ。ところが、岩手県では大型漁船の多い「定置網漁」「延縄(はえなわ)漁」以外でサケをとることが許可されていません。「刺し網でサケをとれれば…」という声は小型漁船漁業者にとって長年の悲願であり、「船はできたが魚をとれない」という切実な問題となっています。

 うっかりサケを捕獲すると「密漁」となり、県条例で「6カ月以下の懲役、もしくは10万円以下の罰金」に処せられます。網にサケがかかれば、もったいなくても海に捨てなければなりません。一方、宮城県では定置網漁以外に、刺し網漁などによるサケ漁獲量が3分の1を占めています。青森県でも刺し網によるサケ漁は禁止されていません。

船はできたが魚がとれない

 集団申請しても不許可処分に

 漁民組合の仲間を中心とした沿岸漁民は昨年9月以降、3次にわたって県知事あてに固定式刺し網漁によるサケ漁の許可を求める集団申請を行ってきました。ところが県からは今年6月に不許可処分が出されました。これに対して7月に農林水産大臣あての審査請求も行いました。請求に対して「3カ月を経過しても裁決がないとき」に該当する場合は行政訴訟が可能となっています。10月29日で3カ月を迎えるにもかかわらず裁決の見込みがないため、訴訟に踏み切ることにしました。今回の提訴は、行政訴訟。勝訴すれば、知事の許可を待たずとも、サケの刺し網漁ができることになります。

 “私たちの要求正当性がある”

 集会では、さけ刺し網漁不許可取消・許可義務付請求訴訟原告団団長の藏徳平さん(岩手県漁民組合組合長)が冒頭、「サケ刺し網が許可されれば、そのほかの小型漁船漁業者の様々な問題も解決する」とあいさつ。

 続いて代理人弁護士の澤藤統一郎弁護士が「これは浜の一揆だ」と前置きしたうえで経過と訴訟の意義について報告し、「県はサケ刺し網漁を不許可とする理由を明らかにしなければならないが、まともな説明がない。私たちの要求には正当性がある。これは勝てる裁判だし、必ず勝つ決意で臨んでいる」と強調しました。

 “魚をとってこそ漁民”なのに…

 集会には、全国からかけつけた来賓があいさつ。

 農民連の笹渡義夫副会長は「私たちはものを作ってこそ農民という立場でたたかっている。漁民もまさに同じで、魚をとってこそ漁民だ。その権利を奪うというのは、漁民の存在を否定するもの」と強調し、「漁民をないがしろにする権力と、たたかっていこう。農業も漁業も主役は家族経営。企業経営では生産を守れない」と呼びかけました。

 千葉の漁民も参加しました。全国沿岸漁民連絡協議会準備会世話人の鈴木正男さん(千葉県沿岸小型漁協組合長)は「全国の漁民が岩手のたたかいに注目している。全国へ、世界へ発信してほしい」と激励。県沿岸小型漁協副組合長の本吉政勝さんも報告しました。

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千葉県からかけつけた鈴木さん(右)と本吉さん

 全国沿岸漁民連絡協議会(漁民連)準備会の二平章事務局長は、全国の漁業にとっての今回のたたかいの意義を語り、このたび声をあげた岩手の漁民や千葉の漁民などの動きと連携し、全国的なものにする意義を強調。漁民連をさらに大きくしていく決意を語りました。

 「大きな一歩」漁民のたたかい

 集会の最後に「さけ刺し網漁の実現を求める決議」を採択し、参加者一同で「浜の一揆」らしく鬨(とき)の声を上げ、漁民のたたかいは大きな一歩を踏み出しました。

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「勝利するまでがんばろう」とときの声をあげました


集会での漁民の発言

なんとか漁師で暮らしていけるように

 フロアからは4人の漁民が発言しました。

陸前高田市の戸羽喜久男さん

 「津波の荒波を見て、息子(22歳)は、漁師になることを決意しました。漁師にはなったものの、この先どうなるのか…。今朝、この集会に行くときに、息子に言われました。弁護士や支援してくれる皆さんにぜひ力を貸してほしい、なんとか漁師で暮らしていけるように、と」

20年間言い続けてきた、見て見ぬふり

田野畑村の佐々木公哉(きんや)さん

 「震災で被害をうけ、船を新造しました。しかし、海底の泥が以前とは違っていることもあり、カゴ・刺し網など、なにをやってもとれません。そんな中、どうしてもサケの刺し網漁が必要です。20年間、とらせてくれと言い続けてきても、見て見ぬふりを続ける行政。これに反旗をひるがえしたのが私たちのたたかいです」

釜石市の三嶋淳さん

 「震災後、船をなんとか手に入れました。『一億の船、すげーな』って言われるけど、港にいることが多くて『何やってるんだ』とも言われたり。息子や若手を入れてやっているけど、経験が少ないからなかなか大変です。今は大目網の準備をしているけど、やっぱりサケがとれればなあ…と思います」

山田町の橋端辰徳さん

 「最初はカゴ漁仲間と話していたことが、これだけ大きくなったことに驚いています。みんな考えてたことなんだなあ、と。組合員を増やせばこのたたかいももっと楽になると思います」

(新聞「農民」2015.11.23付)
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2015年11月

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