「農民」記事データベース20151123-1191-01

農業・くらしを根こそぎ破壊するTPP
地域が守られてこそ、経営も続けられる

せっかくの努力もつぶされる
TPPには絶対反対だ!

 政府がTPPの影響は少ないとする銘柄豚(遠州黒豚)を飼育する森島宏昌さん(37)と、養蜂農家の内山朋飛(ともたか)さん(39)の二人の後継青年の話を聞きに、静岡県浜松市浜北区を訪ねました。二人は、TPPの影響について「自分のものには自信があるが、経営環境が悪化したときにどう影響があるか不安だ」と口にします。政府が育てようとする「やる気のある農業者」にも、TPPの影響が及ぶことを改めて思い知らされました。農業は地域とともにあり、地域農業を守らなければ自分の経営も守れないことになります。地域一丸となった運動がますます重要になっています。
(農民連事務局長・吉川利明、記者・渡邊信嗣)


養豚業は1割残れるか!?
と畜場廃止にも強い不安

養豚業 森島宏昌さん(37)

 静岡県浜松市で養豚業を営む森島宏昌さん(37)。2000年に22歳で就農しました。黒豚を中心に母豚60頭を飼育。年間約600頭を出荷しています。宏昌さんは県の農林大学校を出てすぐに就農しました。「もともと就農するつもりでしたが、始めてから7、8年は不安のなかでした」と話します。

 今は父、倫生さんと2人の従業員とともに作業をしています。「自分で仕事を組み立てることができるのがいいですね。土日も最低限の仕事はありますが、自分の時間もやりくりすることもできます。お客さんに、おいしいと言ってもらえるのはうれしいです。特に、前よりもよくなったと言われるとうれしいですね」とやりがいを語っています。

 4年前から東京の百貨店に3、4割出荷しているのをはじめ、地元精肉会社に3、4割、残りを新日本婦人の会をはじめとする個人と産直販売しています。

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宏昌さんにエサをねだって黒豚が集まります

 県内のと畜場たった1カ所に

 TPPの影響については「自分のところの肉は黒豚でこだわって作っているので、直接の影響は大きくないと思いますが、社会構造の変化で格差が広がれば、顧客の生活がどうなるのか心配です。また、養豚全体を見ると、多頭飼育でコストダウンをめざしている人たちは、大変だと思います。彼らは情報も少なく不安で、『何とかなる』と思わないと続けられない状態です。実際には、1割も残るかどうかじゃないでしょうか。また、浜松市にあると畜場も廃止が打ち出されています。周りの養豚家がつぶれると、と畜場も廃止され、自分の経営にも影響がでてきます。県内に唯一残る掛川市のと畜場で受け入れができるのかどうかもはっきりしません」と不安を口にします。

 今後については「いいものを作る努力をしていくことしかないのでは。新しい取引先も見つけていかないといけませんね」と話していました。


農業衰退で採蜜環境悪化
やりがいある農業磨く

養蜂業 内山朋飛さん(39)

 静岡県浜松市浜北区の内山養蜂場を訪ねました。内山朋飛(ともたか)さん(39)は、5年前から父の賢治さんと一緒に本格的に養蜂(ようほう)業をはじめました。

 賢治さんは1989年(平成元年)に養蜂を始めたときのことを振り返り、「当時はまだ、ミカン畑や雑木林も多く花の蜜もたくさんあった。春に採蜜しただけでなく、秋にも時には夏にも採蜜ができたものだった」と話し、「今は宅地開発、工場誘致でミカン畑も大幅に減り、蜜が集まらない環境になってきたようだ」と説明します。

 朋飛さんに、楽しかったことやこれまでの手応えを聞くと、次のように答えました。「直接売った時に『おいしかった』『地元にこんないいものがあったんだ』と言ってくれたときや、また買いに来てくれたりしたときかな。うちに来るお客さんはほとんどがリピーターで、『地元で採れたはちみつがいい』と何度も買いに来てくれるし、新しいお客さんも紹介してくれる。地元の産業祭にも出展して、ミツバチにかかわるパネルなども作って、消費者との交流を強めている。子どもたちと蜜の絞り方の実演などもしてきた。これからもこんな交流も大事にしていきたい」

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はちみつの採り方を指導する内山さん(左)

 輸入物の9割が家庭用消費に

 TPPの影響については「国産はちみつ2800トンのほとんどが家庭用に消費されますが、家庭消費量全体でみると2・4万トンの約9割が輸入で国産は約1割です。国産品の価格は輸入物の5〜10倍。こんな中で高くても国産品・地元のものが良いというお客さんに支えられている。すみわけがすすんでいるので、TPPで多少安くなったといってすぐにお客さんが輸入品に流れるとは考えにくい。しかし、まわりのミカン園がなくなり、採蜜の環境が変わることが怖い。そうなればいくら良いお客さんをつかんでいてもだめになる」と不安を隠しません。

 これから目指すものとしては、「農業の可能性は大きい。生きていくうえで絶対に欠かせないもの、きびしいけどやりがいはある。農業や自然環境に対する心構えをしっかりもつこと、いいものをしっかり作る技術を磨くことが大切だと思う。5年前からブルーベリーを採蜜植物として栽培したが、今では500キロ以上の収穫もあり、直売所でも好評で有望です」と前を見据えていました。

(新聞「農民」2015.11.23付)
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2015年11月

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