TPP輸出問題
輸出あてこんだ「攻めの農業」が
“日本農業を救う”という大ウソ
安倍首相や甘利TPP担当相は熱にうかされたように、「輸出産業化」「攻めの農業」が日本農業を救うと宣伝しています。
たとえば、甘利TPP担当相。新聞・テレビで「TPPは後ろめたい気持ちでやるわけではない。農業が一気に飛躍していくツール(手段)だ。日本の農業は成長産業で、TPPはそのための環境整備だ」「日本の農産品は私たちが思っている以上に競争力がある。(事後対策は)農業を輸出産業にする『攻め』の対策にしたい」と吹きまくっています。
和牛を6000トン輸出してアメリカ産牛肉を数十万トン輸入?
牛肉輸出が世界3位のアメリカは、日本産牛肉に対してわずか200トンの低関税枠しか提供しておらず、枠外輸入関税26・4%を維持しています。これ自体がバカげた話ですが、交渉の結果、アメリカは低関税枠を14年目に6250トンに増やし、15年後に関税をゼロにすることにしました。
安倍首相は和牛肉輸出の「大きな壁」が取り払われ、輸出が40倍に増えるとはしゃいでいますが、吹けば飛ぶような話です。14年目に6250トンに増えたとしても、アメリカからの現在の牛肉輸入の3・3%にすぎません(図1)。200トン=「0・1%」から「3・3%」に増えたことをもって「成果」などと言えないことは明白です。
また、これは国内生産の1・7%、肉用牛農家5万4000戸のうち900戸分にすぎません。「大きなチャンス」などとはしゃぐほどの水準ではありません。
静岡や鹿児島が世界有数の茶所に?
また、安倍首相は「日本茶にかかる20%もの関税がゼロになる。静岡や鹿児島が世界有数の茶所と呼ばれる日も近い」と持ち上げました。
しかし、現在、茶に関税がかかっているのは、TPP参加国のうち、メキシコ20%、チリ6%、ペルー9%、ベトナム40%だけ。しかも、これら4カ国への日本からの茶の輸出実績はほぼゼロです。日本茶の輸入1位のアメリカ、3位のシンガポール、5位のカナダはすでに関税ゼロ。
逆に、日本が茶を輸入する場合にかけている17%の関税はTPP発効後6年目にゼロになります。
「日本茶輸出組合は『TPPは輸出には関係ないが、輸入が増える可能性はある』とみる。……米国輸出向けも手掛ける鹿児島県志布志市の茶生産者は『輸出といってもまだまだ手探り状態。首相は聞き心地のいいことばかりで、本当のことは言わない。今でさえ経費も出ないのに、安い輸入品が増えて価格が下がれば経営は成り立たない』などと不安を口にする」(日本農業新聞10月14日付)。
わずか1%の輸出が「日本農業の活路」というお粗末
本質的な問題は、現在政府が掲げている農産物輸出目標が仮に達成されたとしても、国内農業生産額の1%にすぎず、「日本農業の活路」だなどとはとうてい言えないことです。
13年5月に政府が決めた「農林水産物輸出戦略」では、2020年の輸出目標を1兆円としました。
「輸出目標1兆円」といいますが、図2のように、ほとんど国産農産物を使わない清涼飲料や菓子、インスタントラーメン、みそ・醤油(しょうゆ)などの加工食品が50%強、水産物と林産物が38%で、純然たる国産農産物は米、牛肉、野菜・果物、花、茶で835億円です。農業総産出額8・4兆円に比べれば1%以下にすぎません。
わずか「1%」で「攻めの農業」だ、「輸出産業」だというのは、インチキ手品か悪質な詐欺、高層ビルの屋上から目薬をたらして目の病を治す類(たぐい)といわなければなりません。
今求められているのは、世界人口の2%にすぎない日本が、世界に出回る食料の10%を買いあさっているという恥ずべき事態からの脱却です。断じて、TPP参加でも「輸出産業化」でもありません。
(農民連副会長・真嶋良孝)
(新聞「農民」2015.11.16付)
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