「農民」記事データベース20151116-1190-01

TPP参加で輸入量が増えたら
私たちの食の安全はどうなる?

紙智子参議院議員事務所・政策秘書
小倉 正行さんに聞く

 TPPで食の安全はどうなるのか。私たちの健康と命にとって切実な問題です。紙智子参議院議員(日本共産党)事務所の政策秘書、小倉正行さんに聞きました。


税関通過時間を大幅短縮

検査件数減・安全基準の緩和に

 TPPで食の安全がどうなるか。

 今わかっている段階で、はっきり言えることが2つあります。

 48時間通関制度に

 一つは、TPPで新しく導入されたのが、TPP加盟国は輸入貨物が国内に到着後48時間以内に税関を通過(通関)させることを義務づける48時間通関制度です。

 これは、これまで日本が締結したFTA(自由貿易協定)には一切ありませんでした。今回、初めて取り入れられたのです。

 この48時間通関制度は、TPP発足時のニュージーランド、シンガポール、チリ、ブルネイの4カ国で定めた協定であるP4協定に入っていました。それがそのままTPPに取り入れられて、日本が受け入れたのです。

 何が問題かというと、2009年の財務省調査でみると、日本の通関時間、つまり一般貨物の輸入手続きの平均所要時間は62・4時間かかっています。それを48時間にしようというのです。

 時間かかる食品検疫

 一般貨物のなかでも、動植物検疫や食品検疫の対象になる「他法令該当貨物」についてみると、輸入手続き平均所要時間は、92・5時間もかかっています。それを約半分の48時間で済まそうという約束をしたわけです。

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検疫の現場を視察する日本共産党国会議員団=10月23日、横浜検疫所(斉藤和子衆議院議員事務所提供)

 「他法令該当貨物」は、なぜ時間がかかるのか。畜産物は動物検疫の検査対象になり、農産物は植物検疫の対象になります。食品検疫をみれば、細菌検査を行うと、培養する作業がありますし、遺伝子組み換えかどうかを調べるPCR検査をすると1日以上かかることもあるのです。その届け出や検査のために当然時間がかかるわけです。

 先日、横浜検疫所を視察しましたが、やはり通関に相当時間がかかっています。これは物理的な問題であって、どうやっても短縮できないのです。それを無理やり48時間に短縮するとどうなるか。結局は、動物検疫、植物検疫、食品検疫の検査件数を減らすことになりかねないということが起きるわけです。または、食品の安全基準の規制緩和などを実施して時間を短縮せざるをえないのです。こうして輸入食品の安全性が大きく脅かされるおそれが十分にあります。

貧弱な検査体制にシワ寄せ

監視員不足で検査率どんどん低下

 もう一つは、以前から指摘してきましたが、TPPで日本の関税撤廃率が95%にも及び、アメリカをはじめ海外から低価格な食品の輸入量が関税ゼロで急増することになります。

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食品衛生監視員の増員は急務です(横浜検疫所)(斉藤和子衆議院議員事務所提供)

 輸入量が増えれば、現行の食品の検査体制にもしわ寄せがきます。つまり輸入食品の検疫を行っている食品衛生監視員の人員は今でも全国に406人しかおらず、検査率がどんどん下がっています。

 図のように、検査率(割合)でみると、2014年度は8・8%です。09年度に12・7%だったのが、下落し、とうとう10%を切ってしまったわけです。

これでは国民の健康と命を守れない!!

 監視員に大きな不安

 その要因の一つは、検査の届け出件数(食品衛生法上、食品輸入者は、輸入届出を義務づけられている)が増えているにもかかわらず、逆に検査総数は減っていることにあります。

 こうして、TPPで輸入量や検査件数がどんどん増えていったら、とても国民の健康と命を守ることなどできないということになります。

 横浜検疫所に行って驚いたのは、女性の食品衛生監視員が多いのですが、その人たちが妊娠・出産ということになるものだから、いまは正職員ではなくて任期付き職員を採用する事態になっています。職員の休日出勤も常態化しています。

 なおかつ、横浜検疫所は、第1種住居地域に建てられており、ここでは、増設、建て替えはできないのです。機器も目いっぱいの状態で、検査試料をつくる前処理工程と検査そのものが混然一体となっているのです。「これ以上検査件数が増えたらどうなるのか」と現場も不安を抱えています。

 政府は、「TPPでも食の安全は大丈夫」などと言いますが、現場はそれどころではないと感じました。

 検査体制の拡充を

 輸入食品の安全性を確保するためにも、1割を切った検査率を大幅に引き上げることと、食品衛生監視員の大幅増員など検査体制の拡充が不可欠です。

(新聞「農民」2015.11.16付)
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2015年11月

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