「農民」記事データベース20151026-1187-07

マイナンバー制度
その問題点と対策
(上)

税理士・立正大学法学部客員教授
浦野 広明さんに聞く

関連/“国民の人権を踏みにじる”

 ナンバー(社会保障・税番号)法が10月5日から施行されています。マイナンバー(共通番号)制度の問題点と対策を2回にわたって取り上げます。1回目は、法の危険な問題点について、税理士の浦野広明さん(立正大学法学部客員教授)に聞きました。


財界・大企業が望む経済体制
治安政策的な意味合い兼ねる

画像  先日、与党が強行採決した戦争法は軍事・政治体制の問題ですが、ナンバー法を支えているのは財界・大企業が望む経済体制ということになります。

 大企業優遇税制と庶民増税をさらに進め、社会保障は切り捨てる。それを担保するためのナンバー法は治安政策的な意味合いも兼ねて行われるという問題点があります。

 一つの番号で全ての情報を管理

 ナンバー法の正式名称は、「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」、要するに個人を国家権力が名前ではなく番号で識別しようというのです。ICカード等によって識別するため、名前は不用で付け足しです。すでに2003年に狂牛病(BSE)が発生したときにこれと似たような法律ができました。「牛の個体識別のための情報の管理及び伝達に関する特別措置法」です。牛に個体識別番号をつける法律ですが、ナンバー法も、人に動物並みに番号をつけて、名前はいらない、という形で管理するのです。

 今でも、預金通帳の番号だとか健康保険証の番号だとかいろいろな番号が私たちにはつけられていますが、今度は一つの番号にすべての情報を集中・管理します。漏えいなどが起きた場合には甚大な被害がおきる問題をはじめ、個人情報を国に全部管理され、個人の尊重がおろそかになるなど問題点が多くあります。

 徴収の強化と給付の抑制

 消費税をはじめ滞納が問題になっている中で、地方税でも各都道府県の滞納整理・回収機構が非常にきびしい徴収をしています。この番号制のもとで歳入庁をつくることが検討されています。国税、社会保険料、それから地方税の徴収事務にあたることが10年度の税制改定大綱の中で決められています。また、国民健康保険料などの支払いをしている人は、いくら健康保険料を払っているかをチェックされることも検討されています。

 広範な市民団体やその運動も狙われる

 また、治安政策的な意味で、法人に対する番号付けも見過ごせません。所得税法、法人税法、相続税法上で法人とみなされる任意団体、税法では人格のない社団等と言われていますが、農民連などの市民団体も人格のない社団と勝手にみなされます。そういう場合に、これは法人であるからと国税庁から番号がつけられます。

画像
「ストップ!マイナンバー」と訴えたデモ=10月3日、東京・渋谷

 番号がつけられると法人については原則的に、個人と違ってその番号の情報は公開するということになっています。さらに、罰則の問題も大変危険です。たとえば法定調書です。従業員に年間500万円以上の給料を払った場合、税務署に源泉徴収票を提出することが義務づけられていますが、これは実際には出さなくても今のところ罰金を科していません。また、法定調書以外にも、いわゆる「おたずね」として、6カ月間に交際費をいくら使ったかとか、いろいろな「法定外調書」類が送られてきていますが、これは法定調書ではありませんから出す義務はありません。

 しかし、この番号制などを採用していく中で、もっと法定調書を増やさなければいけないということを政府は言っていて、いろいろなものを罰則つきの法定調書化していく動きがあります。

 こういう状況の中で国民が監視されるわけですが、特に狙われているのは人格のない社団、任意団体です。政府にとって思わしくないようなことをやると、これを番号で押さえつけようという動きが非常に危険な点です。すでに10年くらい前に東京国税局では、民間団体に対してどんなことをやっているのかということを調べる、事業内容の「おたずね」を送っています。

 全国組織であれば、都道府県あるいは市町村レベルの支部のようなところの名簿を手に入れて、そこに回答を求めるようなものを出すということが進められています。ですから、その法定調書類が番号制のもとで強化されると、そういう形で広範な団体が管理されていくことになります。

 あらゆる生活問題に関連してくる

 マイナンバー制度に関係する法律がこの番号制の法律の中に規定されていますが、私たちのありとあらゆる生活の問題が関連してくるわけです。

 それは健康保険だとか労災保険法、児童福祉、予防接種、身体障害者福祉法だとか、生活保護法、それから地方税の納付とか国税の納付、公営住宅法、社会福祉法、健康保険法などです。

 税務について言えば、国税通則法その他の国税に関する法律による国税の納付義務の確定、納税の猶予、担保の提供、還付または充当、付帯税の減免、調査、不服審査、その他国税の賦課または徴収に関する事務などが入っています。このようにありとあらゆる問題が番号で把握されていきます。こうして、あらゆる情報が入った内容、番号の漏えいがあったらどうなるのかということは大問題です。

 国民ID(番号)カード制を実施していたイギリスでは、国民の人権を踏みにじるということで制度を廃止した例もあります(別項)。スウェーデンなど、前から番号制を採用しているところでもプライバシーの侵害がひどすぎるということで問題が起こっています。

(つづく)


“国民の人権を踏みにじる”

イギリスで廃止に

 番号制について詳しい白鴎大学の石村耕治教授が次のように雑誌に書いています。

 「イギリスでは、前労働党政権が、2008年から、『国民ID(番号)カード制を実施した』…野党や人権団体が『国会が国民を“データレイプ”する…監視ルーツはいらないと大反対したにも拘(かか)わらず…10年5月に誕生した新(保守党・自由党連立)政権が…『恒常的に国民の人権を踏みにじる制度である』として、廃止することとした」(『税経新報』11年12月)

(新聞「農民」2015.10.26付)
ライン

2015年10月

農民運動全国連合会(略称:農民連)
〒173-0025
東京都板橋区熊野町47-11
社医研センター2階
TEL (03)5966-2224

本サイト掲載の記事、写真等の無断転載を禁じます。
Copyright(c)1998-2015, 農民運動全国連合会