「農民」記事データベース20151026-1187-01

どうみるTPP「大筋合意」

米アトランタのNGO行動に参加
(PARC事務局長)内田 聖子さんに聞く

 アメリカ・アトランタで開かれたTPP閣僚会合は9月30日から2日間の予定を3回にわたって延長した末に、10月5日に「大筋合意」なるものを発表しました。アトランタで海外NGOの行動に参加したPARC(アジア太平洋資料センター)事務局長の内田聖子さんに、「大筋合意」をどうみるのか、現地でみてきたことなども踏まえて語ってもらいました。


「大筋合意」は「最終合意」でない

 急ごしらえ開催醜態ぶりあらわ

画像  9月30日に出発し、10月5日に帰国しました。今回の閣僚会合は急ごしらえであったため、現場でみていると、その醜態ぶりはあらわでした。

 ハワイの閣僚会合(7月)のあと、「当分は開けないだろう」という雰囲気でした。アメリカ側の事情をみると、9月に入って、国連総会開催をはじめ、ローマ法王や中国・習近平国家主席の訪米などがあり、議会のなかでは来年度の予算問題などで、閣僚会合が開ける状態ではありませんでした。

 しかし、アメリカ側の事情としては大統領選挙への影響、日本側としては、このタイミングで決めて、ただちに予算化して、来年の参議院選挙に備えていきたいという思惑がありました。

 こうして、政治的な思惑で、日米がセッティングしたため、他の国は仕方なく参加しているという感じでした。現にシンガポールとブルネイは閣僚級を送っていないし、マレーシアは大臣が途中で帰ってしまいました。

 「大筋合意」にこぎつけた背景

 「大筋合意」にこぎつけた背景には、ハワイ会合の教訓から、今回はどこも「悪者になりたくない」という雰囲気がありました。日本のメディアの責任もありますが、乳製品の輸出拡大を求めたニュージーランドが非難されたように、「この国のせいでまとまらなかった」と特定されたため、最後まで強く主張する国はありませんでした。

 会合の途中で、いままで絶対に譲らなかったアメリカが、知的財産分野で8年と譲歩してきた瞬間から、「何とかまとめよう」というムードが高まってきました。

 今回は、これまで以上に、GDP(国内総生産)の大きな国グループと小さな国グループの差がはっきり出た会合だったと思います。TPPの発効条件として、参加国が正式の協定文に署名してから2年以内に議会承認を得られない場合、参加国のGDP総額の85%を占める6カ国以上で国内手続きが済めば発効するというものです。これこそが小国軽視で、大きな国によるごう慢さが見え隠れしています。

 もう切り札ない日本はいらだち

 今回の交渉で対立が激しかったのは、医薬品の特許保護期間、乳製品、自動車の問題でした。自動車がある程度決着して以降は、日本はもはや切るカードがなくなりキャスティングボードを握る国ではなくなりました。

 そのうえ、最後までもめて決まらなかった国にいらだって、「いいかげんにしろ。ゲームはやめてまじめに取り組んでほしい」と言い、議長国アメリカのフロマン氏に対しても、「議長国として議論をまわす戦略がない」と怒っていました。

 オーストラリア、マレーシア、チリ、ペルーなどは貧困層が多く、薬の問題は命にかかわるので、財政負担も増えてしまう。何よりも、人の命、健康を守るという観点でぎりぎりで交渉していました。

 今回、それがいかにインチキであっても「何とか合意」になることは予想していましたが、それ以上に、日本の態度に怒りを通り越して情けなく思いました。早々に譲歩してしまい、ぎりぎりまでがんばっている国々に「早くしろ」と切れている。何のために、誰のために、何をしているのか。

批准させない国会内外の運動を
戦争法反対の世論の高まりを力に

 TPPは死の「協定文書」

 アトランタでのNGOの行動ですが、地元アメリカをはじめ、オーストラリア、マレーシア、ニュージーランドなど各国のNGOが会場にたくさん集まり、日本の参加者もそれに合流しました。情報収集や情報交換を中心に、現地の人々が組織して、集会やデモなどのアクションが閣僚会合の前後に行われました。

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「ストップ!TPP」と米アトランタに集まった海外のNGO

 アトランタは南部で労働運動が強いところで、NAFTA(北米自由貿易協定)で工場労働者が苦境に立たされていますから、労働組合が中心になって500人ぐらいのデモを実施するなど、毎日しつこくやりました。

 会合で焦点になっている医薬品の問題では、乳がんの女性患者が来て、「交渉のなかでは、5年とか8年とか数字の問題でしか語られていないが、命の問題は数字の問題ではない。命は売り物ではない。TPPは死の協定文だ」と強いメッセージを掲げて訴えていました。

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「私は乳がん患者。(薬の特許保護期間の)8年は待てない」と訴えるザハラ・ヘックシャーさん(アメリカ)

 「譲歩」を喜び発表する日本

 今回は「最終合意」ではありません。農産品については、いろいろ数字があがっていますが、その他は、「留保」または書いていないことがいっぱいあります。12カ国が共通の文書にサインしたわけではなく、成文化されているわけでもありません。ある人が「合意したした詐欺にだまされるな」と言いましたが、決してだまされてはいけません。

 日本政府は、「TPP協定の概要」なるものを発表しましたが、これはテキストではなく、これを12カ国で合意したわけではありません。不完全で不十分なものです。その後、「TPP交渉大筋合意の概要」を発表し、おびただしい数の関税撤廃品目と時期を発表していますが、「譲歩リスト」を喜び勇んで発表しているのは日本ぐらいです。

 これから最終のテキストが出されると思いますが、よく検証し、批准させないためにどうするか。まず、国会での徹底した議論が大事です。

 そのために、国会と呼応した運動の広がりが不可欠です。安保法制で蓄積した運動と世論の高まりを力に、全国的な規模の集会やデモ、地方での働きかけも重要です。さらにTPP反対の運動を盛り上げましょう。

(新聞「農民」2015.10.26付)
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2015年10月

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