史上最悪の農業破壊協定案
―TPP「大筋合意」
最終合意でも、「決着済み」でもない
本当のヤマ場はこれから
アメリカ・アトランタで開かれていたTPP閣僚会合は9月30日から2日間の予定を3回にわたって延長した末に、10月5日に「大筋合意」を発表しました。
安倍政権は、すでに「決着済み」とばかりに、いち早く「事後対策」の検討に着手しています。
しかし、残されている未決着問題を解決して協定文書を完成させ、各国の国会承認にこぎつけなければならず、本当のヤマ場はこれからです。
政府公表の「概要」で
農業破壊が浮き彫り
政府は「大筋合意」と同時に「概要」を公表しました。その中身は、TPPが史上最悪の農業破壊協定であることを浮き彫りにしています。
米にTPP輸入枠
これまでのFTA(自由貿易協定)で関税撤廃はもちろん、引き下げや輸入拡大を一切拒否してきた米。アメリカのゴリ押しに屈して、TPP輸入枠を新設。アメリカ米7万トン、オーストラリア産米8400トン(初年はそれぞれ5万トン、6000トン)。さらに、ミニマムアクセス(MA)米のうち6万トンを中粒米枠としてアメリカにサービス。米の調整品・加工品の一部は関税撤廃。
今年、日本の農家は米の過剰解消のため、飼料米の拡大などによって8万トン分の転作を「自主的」に上積みしました。米のTPP輸入枠新設は、この努力をあざ笑い、米価暴落に拍車をかけるものです。
実質ゼロ 牛肉・豚肉関税
牛肉の関税は38・5%から9%に。豚肉の関税は加工用以外は10年で関税撤廃、加工肉の差額関税は1キロ482円から50円に。内外価格差を考えれば、関税はゼロに等しい水準です。
牛肉の生産額は58%減、豚肉の生産額は71%減(全国肉牛事業協同組合、日本養豚協会の試算)。被害は壊滅的です。
安倍首相は「セーフガードを設けるから大丈夫」と大見えを切っていますが、豚肉は12年目に廃止、牛肉も16年目以降は存続が危うい。
小麦も TPP輸入枠
突然浮上したのが小麦のTPP輸入枠(米・豪・加向けに7年目以降25・3万トン、当初19・2万トン)。小麦の国内生産は80万トン、自給率12%にすぎません。都府県の小麦生産(27万トン)が全部つぶれてしまう勘定です。
さらに事実上の関税であり、国産小麦の価格補てん財源に充てられている「輸入差益」を45%削減。代替財源が確保される補償はありません。
乳製品の一部(一部のチーズ、ホエイ=乳清)の関税は撤廃、バターと脱脂粉乳には低関税のTPP輸入枠が新設されます。砂糖・でんぷんにも特別輸入枠。
国会決議違反は明白
以上の5品目(米、小麦、牛肉・豚肉、乳製品、砂糖・でんぷん)は関税撤廃・削減の対象から「除外または再協議する」――これが国会決議です。「除外」は文字通り、「再協議」とは、再協議が整うまでは「除外」するという意味です。
とうてい「聖域」扱いといえるものではなく、国会決議違反は明白です。「関税撤廃の例外を確保したから、国会決議違反ではない」などという安倍首相の言い訳は通用しません。「TPP断固反対、ウソつかない自民党」どころか「TPP断固推進、大ウソつきの自民党」といわなければなりません。
5品目以外でも、鶏肉、果実やワイン、林産物、水産物については関税撤廃にまで踏み込んでいます(1面の表)。
今年1月に発効した日豪FTAは「これが最後の譲歩線」、つまり国会決議順守のギリギリの線といわれました。しかし、「大筋合意」は、日豪FTAを踏み越えて(下の表)、日本農業皆殺しの史上最悪の農業破壊協定だといわなければなりません。
(新聞「農民」2015.10.19付)
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