TPP大筋合意に満身の怒りを
込めて抗議し合意撤回を要求する
2015年10月6日
農民運動全国連合会会長・白石 淳一
一、10月5日、アメリカのアトランタで開催されていたTPP閣僚会議が「大筋合意」に達した。われわれは農業をはじめ食の安全、医療・保険、地域経済と雇用に重大な打撃を与え、国の主権を侵害するTPP「合意」に強く抗議し、合意の撤回を要求する。
一、安倍首相は「国会決議を踏まえ、重要品目を関税撤廃の例外とすることができた」「美しい田園風景、伝統あるふるさとをこれからもしっかりと守っていく」と述べたが、これは「戦争法」を「平和維持法」と言いくるめるのと同じ類(たぐい)の厚かましい開き直りである。
国会決議が求めたのは、主要5品目については関税の撤廃だけでなく削減も行わない「除外・再協議」であり、これが満たされない場合は交渉から撤退することであった。しかし、大筋合意は決議を全面的に踏みにじっている。それは(1)米価大暴落のもとで、アメリカに米のTPP特別輸入枠7万トンを貢いだのに加え、ミニマムアクセスの運用改悪によってアメリカ産米の輸入をさらに6万トン増やす、(2)牛肉・豚肉の関税を実質的にはゼロに近い水準にまで削減する、(3)麦や乳製品、甘味資源のTPP特別輸入枠を新設するなど、どこから見ても「聖域」扱いなどといえるものではない。さらに、5品目以外の鶏肉・鶏卵、果汁、りんご、ワインや林産物、水産物については関税撤廃にまで踏み込んでいる。
日本の農林水産業への影響は計り知れない。食料自給率を引き下げ、日本を存立危機事態へと追い込むものである。
一、乳製品の供給管理制度を守ったと伝えられているカナダに比べても、安倍政権の底なしの譲歩ぶりは突出しており、「交渉力」どころか、譲歩しか能がないのがこの政権の実態である。
甘利TPP担当相は、「国益」をかけて交渉している国々を「ゲームをやめろ」と揶揄(やゆ)し、「行司役」を気取って交渉進展の旗振り役を演じたが、農業や国民生活を犠牲にした暴走を絶対に許すことはできない。
一、TPPは大筋合意したが、決着にはほど遠い。今後、協定文書の作成と公開・署名、国会承認という段階を経るが、アメリカでは、6月に成立した貿易促進権限法(TPA)によって、署名の90日前に議会にその意思を通告し、通告後30日以内に協定文書を公開しなければならない。異常な秘密交渉のもとで隠されてきた協定文書の公開は、TPP協定の反国民性と多国籍企業奉仕ぶりを明らかにし、更なる反対運動を招かざるをえない。
また、公開された協定「概要」によれば、TPP協定の発効には交渉参加国のうちGDP(国内総生産)の合計が85%以上を占める6カ国の批准が必要とされており、アメリカと日本が批准しないかぎり協定は発効しない。アメリカでは、来年の大統領選挙前のTPP協定批准を楽観視する声はごく少数派であり、大国主義的な発効条件は、同時にTPP協定の墓穴につながるものでもある。
一、日本の農業に壊滅的被害をあたえるだけでなく、国民の食と安全、医療、地域経済と暮らしに深刻な影響を及ぼす「合意」の内容と、アメリカに大幅譲歩を重ねてきた安倍政権の追随・暴走ぶりが明らかになれば、国民のより大きな反対運動がわき起こらざるをえない。求められているのは安倍政権が暴走を重ねているこの日本で運動と世論を大きく広げることである。
農民連は、この5年間で築き上げてきたTPPに反対する多くの団体・個人との連携と国際的な連帯をさらに広げ、「合意」の撤回とTPPの息の根を止めることをめざし、運動を大きく発展させる決意である。
一、戦争法の強行、原発再稼働、沖縄辺野古米軍新基地建設の押し付け、消費税増税などに反対する国民の運動は大きく広がり、安倍暴走政治を追い詰めている。農民連は、安倍政権打倒の運動に合流し、広範な国民とともに、TPPを阻止するために全力を尽くす。
(新聞「農民」2015.10.19付)
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