《報告》
20ミリシーベルト受忍論と
どうたたかうか
「生業を返せ 地域を返せ!」
福島原発訴訟弁護団事務局長馬奈木厳太郎
20ミリシーベルト以下は“被害ない”
国・東電の一貫した基本方針に
いま福島をめぐって何が起きているのか
国、東京電力は今年の6、7、8月と、福島原発事故の賠償切り捨て、打ち切りともいえる方針を打ち出しました。
6月12日、自民党の賠償問題に関する第5次提言を踏まえ、14日に閣議決定が行われました。その内容は、「避難指示準備区域を2年後の2017年3月までに解除し、慰謝料も3年分を先渡しした上で打ち切る」というものです。
そして6月15日、福島県は、独自に行っている“自主避難者”への住宅支援(無償で入居できるようにする支援)を打ち切る、と発表しました。
さらに6月17日、東京電力は、営業損害の賠償について2年分を先払いし、事実上の打ち切りを発表しました。
こうした方針をもとに、東電が今年7月に国に申請した「新総合特別事業計画書」では、今後の賠償金支払いの見積もり額を明らかにするなど、賠償打ち切りの姿勢を鮮明にしました。
20ミリシーベルト受忍論とは何か
こうした国・東電の考え方の基本に、「年間被ばく線量が20ミリシーベルト以下は安全だ。これ以下は被害とみなさない」という「20ミリシーベルト受忍論」があります。
この20ミリシーベルトという数字の根拠は、ICRP(国際放射線防護委員会)が「緊急時」の被ばくの範囲として20〜100ミリシーベルトを「勧告」しているというだけです。「健康被害はないか」というと、政府自身も「それは保障できない」と認めています。その一方で「20ミリシーベルト以下の健康リスクは、野菜不足や喫煙などと同等」などという認識を押しつけています。
さらに問題なのは、この「20ミリシーベルト」を避難指示解除の基準としていることです。あくまで「緊急時」の、「暫定的」な線量が、なぜ「住んでよい」基準となるのか。もっと言うと「帰還させても被害はない」ということになるのか。ここに論理の飛躍があります。
6月の閣議決定は、「帰還時期に関らず18年3月まで支払う(それ以降は打ち切り)」としました。これは「帰還後に被害があろうがなかろうが、18年3月以降は払わない」ということです。これでは被害者を黙らせるための“つかみ金”です。こうした意味で、20ミリシーベルト受忍論が、「被害の切り捨て」の基準となっているのです。
福島だけではない全国的な大問題
20ミリシーベルト受忍論は、2つの意味で福島だけの問題ではないと思っています。
一つには、福島で20ミリシーベルト受忍論が既成事実化されてしまったら、いま宮城や茨城など各地で賠償請求が取り組まれていますが、福島県以外の被害に対して、福島以上に手厚くなるなどということは考えにくいと思います。
もう一つは、いま政府は全国の原発を再稼働させようとしていますが、万が一、事故が起きれば、福島での20ミリシーベルト受忍論が先例となり、全国で同様の被害の切り捨てが行われる可能性がきわめて高いということです。これは全国の原発立地自治体でもきちんと認識されていないのではないでしょうか。つまり原発再稼働阻止ともかかわる問題です。
また、現時点では、事業者は営業損害、避難者は住宅支援などそれぞれの課題で、いわば一点突破的に別々に運動が取り組まれています。しかし国の政策が一貫した方針に基づいているとき、ある一部の賠償なり支援なりを「手厚くする」ことはありえません。
一点突破での積み上げももちろん重要ですが、同時にその根底にある20ミリシーベルト受忍論とのたたかいが、今、いよいよ重要な段階に来ていると思います。
(まとめは編集部)
(新聞「農民」2015.9.28付)
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