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日本の漁業政策の課題と展望
全国漁民連準備会結成総会での
川崎 健東北大名誉教授の講演(要大)
全国沿岸漁民連絡協議会(全国漁民連)準備会の結成総会が7月18日に都内で開かれ、東北大学の川崎健名誉教授が「日本の漁業政策の課題と展望」について記念講演を行いました。川崎名誉教授の講演の大要を紹介します。
産業構造の大きな変化で
日本漁業の縮小を、戦後の産業構造の変化のなかでとらえる必要があります。日本のGDP(国内総生産)は1980年代から90年の初めにかけて大きく伸びましたが、その後は停滞しています。
しかし、停滞のなかで大きな変化、つまり産業構造の変化が起こっています。90年以降、製造業などの第2次産業が縮小し始めました。生産拠点を海外に移し、国内産業は空洞化しました。
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全国漁民連結成総会で講演する川崎名誉教授=7月18日 |
漁業を含む第1次産業は、ますます縮小する一方、金や人、物や情報を動かす第3次産業が肥大化してきました。つまり、漁業の縮小は、物を生産する産業の縮小の一部であって、漁業だけの問題ではありません。日本は物をつくらず、やりとりするだけの国になってしまったのです。
日本は魚を食べない国に
つくり変えられつつある
魚離れ―日本人の食生活の変化
日本人の食生活は、大きく変化してきました。一人一日当たりの供給量で、米はもちろん、野菜も乳製品も減ってきました。そのなかで、魚介類も減ってきました。
伸びているのは肉類だけです。家畜は国産でも飼料は輸入で、日本は外国に胃袋を預ける国になってしまいました。魚介類摂取量と肉類摂取量は完全に逆転してしまいました。若い人ほど魚を食べないので、この傾向はますます進むことが予想されます。
21世紀に入って、日本は、一人当たりの水産物消費量が減少し、供給面では、生産量だけでなく、それまで増加してきた輸入量も減少してきました。上昇したのは、自給率だけですが、それは、消費の減少が供給の減少を上回っているためです。
1990年前後から、日本漁業は、遠洋、沖合、沿岸などすべての部門で縮小を続けています。日本周辺の海の豊かな生産力を十分に利用できなくなり、漁業集落が衰退すると、漁業文化・漁村文化も失われることになります。
日本漁業は縮小世界とは逆向き
一方で、世界の漁業生産(漁船漁業と養殖業)は、過去50年間増え続け、平均年増加率は3・2%で、世界人口の年増加率1・6%を大きく上回っています。世界の人口一人当たりの水産物年間消費量は、1960年代には9・9キログラムでしたが、2012年には19・2キログラムにほぼ倍増しています。世界の漁業従事者数は、1995年には3622万人でしたが、2012年には5827万人に増えました。
水産物貿易も大きく拡大し、生産量に占める輸出量の割合は、1976年には25%でしたが、2012年には37%となりました。日本漁業は世界とは逆向きに進んでいるのです。
沿岸漁業の活力で日本漁業の再生を
農漁業を日本の基幹産業とする
規制緩和によって漁業権を資本に開放し、沿岸漁業を活性化しようという動きがあります。ノルウェーのサーモン(サケ)養殖では、沿岸水域は外国資本の手に渡り、資本が利潤を生みだすだけの場になってしまいました。
日本の沿岸水域では、漁業権によって過剰漁獲を防ぎ、海が守られてきました。政府が推し進める農漁業の規制緩和路線によって、沿岸漁業を衰退させてはなりません。
日本は物を生産せず、食料を生産せず、そして国土の周りは海なのに、その資源を十分に利用していません。日本は魚を食べない国につくり変えられつつあります。食料安全保障の観点から、世界でも特異な国になってしまい、これは極めて危険な状態であること、そしてこの状態は戦後の政治がもたらしたことの認識を国民が共有する必要があります。
農漁業を基幹産業と位置づけ、食料安全保障の優先度を国家の自立にとってトップの課題にすること、沿岸水域は漁業権によって守られること――を国の政策の基本にすえることです。
また、価格保障政策を確立し、自給率向上に背を向けるTPPから離脱すべきです。
さまざまな形で現存する沿岸漁業の活力に依拠し、それを支援しつつ日本漁業の再生を図ることが必要です。
(新聞「農民」2015.8.24付)
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