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赤シソの心地よい香り−
最近では弱くなっている
日本列島の多くで梅雨明けしました。梅酢のたるをチェックしながら、土用干しができる夏の日差しを満喫している人も多いのではないでしょうか。
色重視の選択すすみ
梅干しには欠かせない赤シソの話です。シソの心地よい香りは、科学的には香気成分の「ペリルアルデヒド」に少しリモネンが混じったもの。そのまま食べることの多い青ジソはこれら成分を豊富に含んでいますので、あの香りと言えばわかりやすいでしょう。一方、梅干しに使う赤シソは、スーパーで見かけるたびににおいをかいでみても、あの香りがしないものが多いように思います。庭で毎年勝手に生えてくる赤シソも、昔はもっといいにおいだったのに、と感じている人もいるのではないでしょうか。
シソの香りは、主に葉の裏面にある腺鱗(せんりん)が割れて、精油が気化することで立ちます。この精油は主成分の生成経路によって、モノテルペン系とフェニルプロペン系の2つのタイプに分類されます。シソだけがもつ香気成分である「ペリルアルデヒド」はモノテルペン系の生成経路から作られます。京都大学大学院の研究などによると、最近の赤シソはフェニルプロペン系のタイプが増え、香りが弱くなっているようです(色重視の品種に選抜が進んだため)。さらに、シソ独特の香気を作るモノテルペン系の生成経路があっても、主成分が「ペリルアルデヒド」ではないタイプも多くなっているとされます。
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赤シソの腺鱗を実体顕微鏡で撮影したもの。黄色いつぶつぶが腺鱗で、中ににおい成分が詰まっています |
自然交配に任せると
シソ科植物は、虫が花粉を運ぶことで受粉を行います。虫はどこでも移動できますから「ペリルアルデヒド」を多く作る系統があっても自然交配に任せすぎていると、別の香気成分を作る系統に変わってしまうことが起こりえます。京都大原は柴漬けが有名ですが、柴漬けに使われる大原産のシソは「ペリルアルデヒド」を6割も含むというデータがあります。大原では800年もの間、シソは山間で隔離して栽培していたそうです。「ペリルアルデヒド」は抗菌作用を持っていますから、その含有量を高めることは食品の保存性という点でも重要なことだったのかもしれません。日本農業の奥深さと積み重ねられた経験、地域風土を感じるお話です。
さあ、待ちに待った梅雨明けです。お住まいの地域にも隠れたシソの品種がないか、思いをはせてみるというのはどうでしょうか。
(八田)
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広島・福山市 森川美紀恵 |
(新聞「農民」2015.7.27付)
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