「農民」記事データベース20150727-1175-11

私と土づくり
国際土壌年にあたって

農民連顧問 坪井貞夫(岡山県)


農地は多様性の宝庫、
農耕は文化・生活の基本

 今年は国連が定めた「国際土壌年」です。昨年の「国際家族農業年」に続いて、自然と食糧の生産基礎である農耕と土壌に国民的関心を呼びかけています。私は自分の体験を通じて、土壌の意味と大切さを感じていますが、その体験の一部をお話しします。

 エンゼル・ヘアー

 みなさん、「エンゼル・ヘアー」をご存じですか? 読んで字のごとく「天使の髪の毛」ですが、見たことがありますか? 私はあるのです。

 私が中学生の頃に、ちばてつや(多分?)と言う漫画家が書いた漫画で、「空からエンゼル・ヘアーが降ってくる」と言うのを、物語の一節で読んだことがあります。その漫画ではそれ以上の説明はなく、空からキラキラ光る天使の髪の毛のような物が降ってくる絵を見て不思議に感じましたが、それが何かについては触れられていませんでした。しかしなぜか不思議に今でも心に残っていたようです。

 友達が私の“先生”

 私は農業には無縁な京都の都会で暮らしていましたが、色々あって結婚後、現在の妻の実家である岡山で農家として生活するようになりました。

 当初は無我夢中で何が何だかわからないままに、妻の父親に教えてもらいながら農業に取り組んできました。友達はみんな私の先生でした。「肥料はどうして作物に吸収されるのか?」「有機肥料と化学肥料の違いや、その吸収の仕方」など、わからないままの議論も楽しいものでした。

 しかし作物にしても、それを食べる人にしても、可能な限り自然に近いもの、化学肥料などに頼らないもの、作物の自然の力を援助する農業を目指すのがその結論であったようです。しかし実際に農業で生活をするとなると理想だけでは成り立たないのも現実でした。農産物の販売価格は安く、作物の病気や草とのたたかいも大切で、しかも人力だけではとても対応できませんでした。

 しかし農薬や化学肥料を極力減らして、堆肥や人の手による除草に心がけることが、安心安全だけでなく、経費の削減に大きな役割を果たすということもわかりました。

画像
水田の耕うん時はレンゲが満開です

 天空から降って来た

 それから何十年と農業を続けていますが、今から7年ほど前に、そのエンゼル・ヘアーを見たのです。

 私は、水田を当時240アールほど殺菌、殺虫剤を使用せずに、木酢を稲の開花前と開花後の2回散布するやり方で米を作っていました。

 極寒が続く2月のある日、何だか「ポカポカと不思議に暖かい日」でした。風が少し吹いていました。私が田んぼの畦草を刈ろうと、ジョレンくわを持って田んぼに出かけました。

 すぐには気づきませんでしたが、何か田んぼの上をキラキラ光る「糸」のような物が漂っていました。見上げると田んぼの上一面を、まさしく天使の髪の毛が降って来ているように見えました。「わあ、エンゼル・ヘアーだ…」。感激の気持ちで見ていました。

 何だろうと見てみると、まだ稲株が残る田んぼ一面に、生まれたばかりのクモがうじゃうじゃといます。そのクモがお尻から糸を出して風に乗って飛び上がります。太陽の光を浴びてキラキラ輝きながら舞い上がり、降るように漂うではありませんか。これが天使の髪の毛が降る様子なのだと思いました。

 しかしそれは、ほんの一瞬の出来事で次の少し強い風で飛び散ってしまいました。何か夢をみていたような気分ですが、田んぼにはクモの巣糸が一面に広がっていました。毎年同じことが繰り返されているのでしょうが、私はまだ一回しか見ていません。

 次つぎと新しい発見

 農業の不思議、自然の不思議はたくさんあります。稲を植え終えた田んぼには今ホウネンエビやカブトエビがたくさん泳いでいます。農薬に弱い虫たちは一時見ることはできませんでしたが、次々新しい発見があります。農地は多様性の宝庫であり、農耕は日本国民の文化や生活の基本なのだと思います。いつまでも大切にしたいです。

 私は毎年10アールに1トンの堆肥を入れ、レンゲや菜種を植えて、化学肥料はやりません。土壌を大切にし、「エンゼル・ヘアー」に会えることを楽しみにがんばっています。

(新聞「農民」2015.7.27付)
ライン

2015年7月

農民運動全国連合会(略称:農民連)
〒173-0025
東京都板橋区熊野町47-11
社医研センター2階
TEL (03)5966-2224

本サイト掲載の記事、写真等の無断転載を禁じます。
Copyright(c)1998-2015, 農民運動全国連合会