28日からTPP閣僚会議
難問が次つぎに表面化
国会決議も国益も
踏みにじる譲歩は許されない
TPP閣僚会議が7月28〜31日にハワイで開かれます。日米両国は「この数カ月の間に極めて大幅な前進があった。会議の結果を楽観視している」(フロマン米通商代表)、「これを最後の閣僚会合としなければならない」(甘利TPP担当相)とあおりたてています。甘利氏にいたっては競馬の予想屋のように「大筋合意の確率は今回は70%」とも述べています。
「30%」の確率で会議が失敗に終わる可能性を認めたともいえますが、アメリカの通商専門筋は、はるかに厳しい見方をしています。「閣僚会議で全ての問題が解決されない可能性がある」(ライアン下院歳入委員長)、「合意に達する可能性はごくわずかだ。新参者の交渉官たちはハワイで困難を思い知るだろう」(ヤイター元通商代表・農務長官)などなど。
それもそのはず。「大幅な前進」どころか、交渉終盤を迎えて、抜き差しならない難問が次々に表面化しているからです。
 |
「TPP閣僚会合での合意は許さない」と開かれたキャンドル国会請願デモ=5月20日 |
国会決議を守り抜く カナダ
難問の一つは農産物です。フロマン通商代表と甘利TPP担当相は7月に入って、カナダはずしを公言しはじめました。
カナダは、アメリカの長年の攻撃に抗して、乳製品と鶏肉・鶏卵の生産数量と輸入数量を管理し、生産費にもとづく価格決定を行う「供給管理制度」を維持しています。2005年には国会が「供給管理制度部門でいかなる枠外税率の削減も、かつ、いかなる関税割当枠の拡大もしてはならない」と決議。
カナダが妥協に傾くという観測もありますが、10月に総選挙を控えて、ハーパー首相は「供給管理制度や農家を保護すべく最善を尽くしており、交渉終了まで貫く」と明言しています(ロイター、6月26日)。
国会決議も国益もアメリカに売り渡す日本
これに対し甘利氏は「どうしても(合意に)間に合わない国は、後から参加してもらうという選択肢もある」と指摘し、「合意する意思のない国があるとしたら、そのためにTPPを漂流させるわけにはいかない」と公言しています。
これは二重の意味で不当きわまりないものです。
第1に、国会決議を守り抜いているカナダを「合意する意思のない国」と攻撃し、アメリカと二人三脚で屈服させようとしていることです。
第2に、安倍政権は国会決議をまったく踏みにじって(1)アメリカ米の輸入を10万トン前後増やす、(2)牛肉関税は4分の1の9%に、豚肉関税は10分の1の50円に大幅に引き下げ、(3)乳製品の輸入枠を拡大する――などの底無しの譲歩を重ねています。カナダも日本も保守政権ですが、国民との約束である国会決議と国益を守る姿勢においては雲泥の差。安倍政権はカナダの爪のアカでも煎(せん)じて飲め! と言いたくなるほどです。
なにも譲らないアメリカ
アメリカはあきれかえるほど身勝手です。乳製品の国際競争力が世界一のニュージーランドはアメリカにも「完全自由化」を要求しています。
アメリカの魂胆は、カナダと日本の乳製品市場を開放させ、アメリカから両国向け輸出が増えた分をニュージーランドから輸入して事態を収めようというもの。自らは痛くも痒(かゆ)くもないというわけです。
クリントン候補「TPP交渉、離脱も覚悟を」
民主党のヒラリー・クリントン大統領候補は「貿易は製造業などで空洞化をもたらしてきた。もし(TPPが)雇用を創出し、賃金を引き上げるものなら支持すべきだが、そうでないなら撤退することも覚悟すべきだ」と演説しました。
オバマ大統領は、与党・民主党の大部分を敵に回してTPA(貿易促進権限)法案を成立させましたが、TPPはさらに敵対の構図が深まります。
既報(7月6日付)のように医薬品やISD(投資家対国家紛争解決)、公営企業など、難問は山積しています。予断はできませんが、万万が一、閣僚会議で何らかの「合意」ができたとしても、それは新たな全面対決の幕開けにほかなりません。
◇ ◇ ◇
ハワイ閣僚会議監視行動には農民連を代表して、岡崎衆史国際部副部長が参加します。
(新聞「農民」2015.7.27付)
|