「農民」記事データベース20150706-1172-01

米TPA法は“TPP自動製造機”ではない

「全面対決」はこれからだ


各国の矛盾激化、日本と世界の
たたかいが行方を決める

 アメリカ議会は2カ月の迷走の末に6月24日、大統領に貿易促進権限(TPA)を与える法律を成立させました。安倍政権や日本のマスコミは“これでTPP妥結は確実だ”と宣伝しています。しかし、事実はまったく違います。

 アメリカでは憲法上、貿易交渉権限は政府ではなく議会が握っており、TPP妥結のためには、TPA法を成立させ、政府が議会から権限を譲ってもらうことが不可欠です。河北新報は社説で「各国はこれまで、不思議なことに通商交渉権限のない政府と協議を重ねてきた」と痛烈に皮肉っていますが、アメリカ政府はTPA成立によって、やっと他国並みの権限を得たにすぎません。

 昨年1月の最初のTPA法案提出から数えると1年半。やっとTPP協定の署名・承認の手続きが整備され、TPPの内容と是非をめぐる本格的な議論の入り口に立ったのであり、全面的な対決はこれからです。

 3つの角度から検証します。

 TPPをめぐる新たな全面戦争の始まり

 アメリカの主要メディアの報道は、“TPAが通ったから、TPPは一丁上がり”という日本の大手マスコミの報道とは対照的に、新たな、より鋭い対決を予測するものばかりです。

 「ウォールストリート・ジャーナル」――「TPP勝利は手の届くところにあると思うのは大きな間違いだ。大統領にTPAが付与されたことは、劇の第2幕の始まりにすぎない」「TPPが議会に上程されても、左派、右派双方から攻撃され、TPP協定成立はTPAよりはるかに難しい」と報道したうえで、元米通商代表の「TPPの新たな全面戦争が始まるだろう」との言葉を紹介。

 大手通信社「ブルームバーグ」――「民主党やリベラル陣営は、TPPに新たな闘いを挑むと早くも表明している。オバマ大統領は(TPAに続き)味方との度重なる対決に臨むことがほぼ必至となった。しかも、次の対決は2016年の大統領選挙戦が本格化する時期と重なる」と、対立の激化を予測しています。

 野党・共和党との野合、陰謀・買収

 オバマ政権の与党は民主党ですが、下院では民主党議員の85%が反対し、TPAはいったん否決され「のたれ死に」必至の状態になりました。

 事態を打開するために使われた手は二つ。

 一つは、「TPPのための米国企業連合」や、TPPによって最も利益を受ける医薬品企業が徹底的な政治献金を行って賛成票を確保したこと。これはまぎれもない「法案買収」でした(詳しくは次号で特集します)。

 もう一つは野党・共和党とオバマ政権の「連合」によって、与野党ともに賛成の「消防士年金法案」にTPAをもぐりこませるなど、複雑怪奇で薄汚い駆け引きで法案を生き返らせたこと。

 共和党に大きなツケを負ったオバマ政権は、多国籍企業、アグリビジネスの利益をより強く代弁する共和党の要求に屈して、自由化圧力をより強めることは必至です。たとえば、日米協議の焦点でいえば、アメリカ米20万トン輸入を強要する、牛・豚肉関税大幅引き下げの前倒しを要求するなど。

 問題山積みTPP、難航する交渉

画像  交渉終盤を迎え、医薬品、農産物、国有企業、投資家対国家紛争解決(ISD)などをめぐる対立は激化必至です。

 医薬品の特許期間延長は、エイズ対策に必須のジェネリック薬品を規制するもの。アジア諸国は強く反発しています。

 オーストラリア、ニュージーランドは国が薬価をコントロールし、国民に安い医薬品を提供していますが、アメリカは廃止を要求。「薬価は上昇し、公的医療制度はマヒする」(現地紙)と、大問題になっています。

 農産物の対立も激化しています。アメリカは日本に市場開放をゴリ押しする一方、競争力のあるオーストラリアに対しては“米豪FTA(01年)水準から一歩も譲らない”と通告。ニュージーランドには“一緒に日本とカナダの乳製品市場をこじあけよう”と、虫のいい共闘を提案。

 両国は6月に「アメリカは市場開放を拒否している」と批判、ニュージーランド貿易大臣は「乳製品が協定に含まれない限りTPPには参加しない」と言明しています。

 ISD。オーストラリアが強く拒否し、米豪FTAはアメリカが結んだFTAでは初のISD抜きの協定。11年には「ISDを含む協定は一切認めない」ことを閣議決定し、日豪FTAもISD抜き。今後の豪政府の出方が注目されます。

 国会決議違反の暴走は許さない

 「日米間には、それほど深刻な課題は残されていない」「7月中に交渉をまとめたい」――甘利TPP担当大臣はこう言ってのけました。

 冗談ではありません。

 米過剰・大暴落のさなかにアメリカ米の追加輸入を受け入れ、畜産危機の真っ最中に牛肉・豚肉関税を大幅に引き下げるかどうかが日米協議の焦点です。国会決議も国益も踏みにじって「聖域」をアメリカに差し出す――これを「深刻な課題は残されていない」などと軽く言ってのけて譲歩を重ねる暴走を許すわけにはいきません。

 TPP拒否は各国の運動にかかっています。国際的な連帯を強めて全力をあげるときです。

(新聞「農民」2015.7.6付)
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2015年7月

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