TPP交渉
“討ち死に”覚悟の採決強行から
“のたれ死に”寸前、さらに急変
―二転三転するアメリカ議会の攻防
交渉の漂流・沈没か、進展か――TPP交渉のカギの一つを握る貿易促進権限(TPA)法案をめぐるアメリカ議会の攻防が二転三転しています。
アメリカでは憲法上、貿易交渉権限は政府ではなく議会が握っており、妥結のためには、TPA法案を成立させ、政府が議会から権限を譲ってもらうことが不可欠です。
密室での壮絶なかけひき
TPA法案は5月22日に上院を通過、6月12日に実質審議も修正提案もなしのまま下院本会議で採決に付されました。目立ったのは、(1)与党・民主党とオバマ大統領の異様な「ねじれ」と、(2)野党・共和党とオバマ政権の“連合”、(3)そしてオバマ政権閣僚と大企業ロビイストによる民主党反対派議員への説得・圧迫工作でした。
密室での壮絶な駆け引きの末に、TPAと不可分の貿易調整援助(TAA)と呼ばれる労働者救済策を分離して採決に付しました。その結果、TPA本体は219対211の賛成多数で、下院過半数の217をわずか2票上回って可決されたものの、TAAは賛成126、反対302と大差で否決されました。
アメリカのメディアは「下院 貿易法案を拒否、オバマの熱烈な訴えをはねのける」(「ニューヨーク・タイムズ」)、「貿易をめぐるたたかいでオバマに屈辱的な打撃」(米議会専門紙「ザ・ヒル」)などと報道。
議会側も大差を引っくり返すのは困難と判断し、16日には再採決を7月30日まで延期するとし、TPA法案は“風前の灯”状態に。“討ち死に”覚悟の採決強行から、“のたれ死に”寸前にまで行ったはずでした。
ところが「共和党・オバマ連合」は、“のたれ死に”するぐらいなら、もう一度一か八かの大勝負に打って出ようと、可決済みのTPA本体法案を18日に再採決を行い、賛成218、反対208で可決。過半数をわずか1票上回っただけでした。日本の国会ルールでは、一度否決された法案をそのまま再採決することはありえないのですが、アメリカ議会にはこの常識は通用しません。
決着の場は上院に移りました。オバマ大統領は「アメリカの利益になるように世界の貿易ルールを書き直す」と公言し、TPA推進に必死です。
TPA・TPP反対の運動の先頭にたってきたアメリカ労働総同盟・産業別組合会議(AFL・CIO)は「我々は、第2クォーターを終了してスコアは1対1のタイのまま、第3、第4クォーターに臨もうとしている。労働者の決意はかつてないほど強固だ。我々は、TPAと大企業のための協定を拒否し、米国の労働者と経済を守るため、あらゆるレベルで、あらゆる方法を用いてたたかう」という声明を発表しています。
肝心なのは日本での運動
私たちは強い連帯感をこめて、アメリカでの運動が発展することを期待します。同時に、なにより肝心なのは“のたれ死に”寸前のオバマ政権を支え、TPP推進に躍起になっている安倍政権のお膝元で、私たちがTPP反対の運動を大きく発展させることです。
菅官房長官は19日「ようやく(TPP交渉の)頂上が見えてきた」とはしゃぎ、甘利TPP担当相は「上院で可決されれば、速やかに2国間で残る問題の処理へ動きだす」「日米間には、それほど深刻な課題は残されていない」と言い切りました。
しかし、日米協議で安倍政権は、米過剰・米価暴落のさなかでアメリカ米を10万トン前後輸入する、酪農・畜産危機のもとで牛肉・豚肉関税を大幅に引き下げるなど、国会決議を踏みにじる譲歩案を示しています。これを「深刻な課題は残されていない」などというのは、TPAが成立すれば、大手を振って国会決議も国益も踏みにじるという宣言にほかなりません。
戦争立法や労働者派遣法改悪、農協解体法案、そしてTPP推進など、国民と安倍政権の矛盾はますます鋭くなっています。TPPを漂流・沈没に追い込むことは、安倍政権を国民的に包囲する運動の重要な一環となるでしょう。
(新聞「農民」2015.6.29付)
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