「農民」記事データベース20150525-1166-01

戦争法案

自由法曹団常任幹事
弁護士 田中隆さんに聞く

関連/戦争法案許さない

 「海外で戦争する国」へと日本をつくりかえる「戦争法案」が5月14日に閣議決定され、15日に国会に提出されました。同法案の問題点を、自由法曹団常任幹事の田中隆弁護士に聞きました。


世界中のどこへでも
切れめなく戦争に参加

 自衛隊に関わる法を抜本的改定

 ――今回の法案はどういう内容でしょうか?

画像  田中 戦争法案は、日本の戦争と自衛隊に関わる法律の主なものをすべて抜本的に変えてしまうものです。自衛隊法や国連平和維持活動(PKO)協力法など過去二十数年の派兵法制・有事法制10本を一括改正し、戦争中の他国軍を兵たん支援する国際平和支援法(海外派兵恒久法)を新法として制定します。

企業・公共団体・国民までも協力させる
国をあげて戦争する法制

 日本への武力攻撃がなくても

 ――戦争法案の中身、問題点をお話しください。

 田中 第一に、集団的自衛権の行使容認によって、日本への武力攻撃がなくても、戦争に突入することになります。

 2003年、04年に有事法制が強行されました。有事法制は、武力攻撃事態法と、自衛隊法や特定公共施設等利用法などの個別法からなっています。武力攻撃事態法で、事態の認定と国会承認が行われると、すべての個別法がいっせいに発動されるしくみです。

 防衛出動命令を受けた自衛隊が武力を行使するだけでなく、民間企業や地方公共団体が対処に組み込まれ、国民は協力の責務を負わされます。

 有事法制は「国をあげて戦争をする法制」であって、決して「自衛隊と隊員だけが戦争に行く法制」ではありません。

 この有事法制に「存立危機事態」がつけ加えられます。この国への武力攻撃がなくても、他国による武力攻撃で「わが国の存立」や国民の権利が「脅かされる明白な危険」が生じれば、「存立危機事態」が認定されて自衛隊は海外に出撃し、この国は戦争に突入します。ほとんどの場合、同時に武力攻撃事態も認定されて、自治体や企業が組み込まれ、国民への徴発・徴用が行われるでしょう。

 昨年、岸田文雄外相は「米国に対する武力攻撃は、わが国の国民の命やくらしを守るための活動に対する攻撃だから、あてはまる可能性が高い」と答弁しました。これは「米国が戦争に入ればただちに参戦する」というのと同じです。

 戦闘の制約撤廃 武器使用認める

 第二に、海外派兵が拡大します。1990年代から、PKO法、周辺事態法、「テロ」特措法・イラク特措法などいくつもの海外派兵法がつくられました。しかし、憲法の制約から、派遣地域は将来にわたって戦闘が起こらない「非戦闘地域」「後方支援」に限定され、武器の使用は自分たちの生命・身体や武器の防護に必要な場合に制限され、活動も後方支援に限られてきました。

 しかし、戦争法案では、「非戦闘地域」の制約を撤廃して「現に戦闘が行われている現場」でなければ派遣でき、武器の使用の制約も取り払って、「任務遂行のための武器の使用」を認めています。

 第三に、警察が対応すべき領域に自衛隊を投入しようとしています。有事とは「敵を殺すこと」を正義とする戦争の領域、平時とは「凶悪犯人でも逮捕して刑事訴追」という警察の領域で、本来なら厳格に区別されなければなりません。ところが、「純然たる平時でも有事でもない事態」(グレーゾーン事態)を言い立てて、警察が対応すべき場面に自衛隊を投入しようとしています。

 こうして自衛隊の活動は「切れ目のない安全保障」で、飛躍的に攻撃的となるのです。

 国連決議あれば自衛隊派遣も

 ――どんなときに自衛隊の海外派兵は可能になるのでしょうか。

 田中 3つのチャンネルで可能になり、海外派兵はやりたい放題です。一つは、周辺事態法が、「周辺」の制約をはずした「重要影響事態法」に生まれ変わり、「我が国の平和と安全に重要な影響を与える事態」であれば、世界のどこでも軍事行動を展開できる軍隊を支援できるようになります。しかも、支援の対象は、米軍だけでなく、米軍の同盟軍などに拡大され、弾薬の補給や発進寸前の空軍機への給油もできるようになります。

 二つめは、新設される国際平和支援法で、そのつど特措法を制定しなくても、なんらかの国連決議があれば、「国際社会の平和と安全」(国際貢献)のために自衛隊を派兵できるようになります。

 三つめは、PKO法が改正されて、PKOに派遣された自衛隊の部隊が「駆けつけ警護」や「治安維持活動」をできるようになります。そればかりでなく、何らかの国連決議などがあれば、国連の統括しない「国際連携平和安全活動」(多国籍軍)でも「紛争終結後の治安維持活動」を認め、妨害排除のために撃たれなくても発砲できる「任務遂行のための武器の使用」を認めます。

広範な国民運動で
廃案に追い込もう

 戦争遂行のため食料増産強いる

 ――農業、食料への影響はありますか?

 田中 仮に戦争を継続するときに、食料をどうするかは重要な問題です。食料の生産・管理に密接に関わる農家に対して、物資の保管命令や収用が課せられるという問題は当然起こってきます。そして戦争遂行のために、食料自給率が著しく低い日本では、さらなる食料の増産が必要になってきます。

 もし日本がTPPに参加していたとしても、アメリカやカナダからの食料の輸送路は断たれることになるでしょう。

 ――最後に、今後のたたかいの展望について。

 田中 「戦争法案」は、400ページもの分量ですべての軍事法を変える「巨大一括法案」です。決して今国会だけで決められるものではありません。良心的な保守層も含めた広範な国民運動で廃案に追い込み、戦争の道を許さないたたかいをさらに広げましょう。


戦争法案許さない

2800人反対の声

 5月12日に2800人が東京・日比谷野外音楽堂に集まり、「戦争法案許さない」「9条守れ」の声をあげました。弁護士会から「最大の人権侵害である戦争は許さない」、憲法研究者からも「反対声明を出す」と声があがりました。

(新聞「農民」2015.5.25付)
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2015年5月

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