「農民」記事データベース20150504-1164-01

今こそTPP反対運動の大波を


米も牛肉・豚肉もアメリカに
“貢ぎ物”として差し出すのか

 牛肉関税は4分の1の9%に、豚肉関税は10分の1の50円に大幅に引き下げ。さらに、アメリカ米の輸入を現在の主食用輸入枠(SBS))と同量の10万トン増やす――。これは、アメリカの一方的な要求ではなく、“貢ぎ物”のように安倍政権がアメリカに差し出した提案です。

 見返りにアメリカが“譲歩”するのは、わずか2・5%の自動車部品関税の一部を引き下げること。2・5%といえば、1ドル120円が117円になれば帳消しになる程度のもの。

 米と自動車を取引し、しかもその結果は日本農業には致命傷を負わせ、アメリカにとっては痛くもかゆくもない――。なにが“ギリギリ”の交渉の結果でしょうか。「これは『交渉』でなく『一方的な日本の切り売り』としか表現する言葉が見つからない」といわなければなりません(内田聖子・アジア太平洋資料センター事務局長ブログ)。

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白石淳一会長(右)を先頭に「TPP交渉から撤退せよ」「農協つぶしは許さない」とこぶしを振り上げる参加者=国会前

 シラを切り、国会決議を完全に踏みにじって

 甘利明TPP担当相の最近の舌まわりはなめらかです。「米の重みはウルトラトップクラス」だとしてフロマン通商代表と渡り合ったと自慢し、10万トンを提案した「事実はない」とシラを切ったうえで、農協代表にシャアシャアと「日本の国益を踏まえ、国会決議をしっかり受け止めながら交渉していきたい」と述べています。

 「論語」に「巧言令色鮮(すくな)し仁」という言葉があります。口先巧みで愛嬌(あいきょう)を振りまく者は不誠実で、人として最も大事な徳である仁の心が欠けているという意味ですが、甘利氏にぴったりというべきでしょう。

 同時に、甘利氏は「極めて野心的な目標を承知で交渉に入っている。勇ましいことを言っていてもまとまるわけではない」と自民党に説明しています(日本農業新聞、4月23日)。「野心的な目標」とは米を含む売国的な譲歩をさし、「勇ましいこと」とは、重要農産物を「除外又は再協議の対象」とし、これが貫かれない場合は交渉からの脱退を求めた国会決議をさしていることは明白です。

 また、甘利氏は、28日の日米首脳会談で「相当な進展があったことを歓迎し、残された課題を早急に閣僚間で詰めるように指示が出される」「もう一度日米閣僚会談をやれば妥結できる」と言明しています(日経、4月26日)。

 「機能不全」を起こしているアメリカ

 風雲急を告げる正念場ですが、安倍政権がここまでのめり込む背景には、オバマ政権の助っ人を買って出ているという事情があります。

 アメリカの外交専門家は「TPP交渉の妥結の瀬戸際となった現時点でグズグズしているのは、安倍首相ではない。むしろ米国の方だ。米国こそが『機能不全を起こした参加国』との様相を呈している」と断じています(「東洋経済」4月11日)。

 実際、TPP妥結に必須な貿易促進権限法(TPA)をめぐる動きは混迷をきわめています。アメリカでは憲法上、通商交渉権限は政府ではなく議会が握っており、TPP妥結のためには、TPA法を成立させ、政府が議会から権限を譲ってもらうことが不可欠です。これがないと、議会がTPP協定を修正する権限を持つため、妥結した協定がチャブ台返しになるからです。

 1月に提出が予定されていたTPA法案は、4月16日にやっと提出され、22、23日に上下両院の委員会で可決されました。日本の国会の感覚でいえば、これで法案成立間違いなしというところですが、むしろこれからが山場です。

 少なくとも問題は2つあります。(1)TPA法案が本会議で可決される見通しはまったくたっていない、(2)万万が一成立したとしても、議会が修正・再交渉を求める仕組みが新たにもうけられている。

 TPA法案成立のメドは立っていない

 第1は、TPA法案に対し、オバマ政権与党の民主党下院議員の大多数(188人中151人=80%)が反対で、野党の共和党議員の中にも反対派が少なからず存在します。これまでも、TPAは1票差〜数票差のきん差で可決してきた歴史があり、投票してみなければわからないのが実態です。

 オバマ大統領は「日本市場をアメリカ産の農産物や自動車に開放させるTPPになぜ反対するのか。彼らは何も分かっていない」と、身内の民主党議員を批判。大多数を占めるTPP・TPA反対議員の切り崩しに躍起になっています。

 ニュージーランドのジェーン・ケルシー教授は「法案の支持票はまったく不足しているが、大統領は一か八かの決死の賭けに出た」と指摘し、アメリカのNGO「パブリックシチズン」は「法案は賛否の可決にすら至らないまま消えていく可能性もある」と分析しているほどです。

 第2に、議会の協定修正権限を抑え込むことがTPAのポイントですが、法案は“チャブ台返し”条項を新たにもうけ、議会に異議申し立て権を与え、大統領から貿易促進権限を取り上げることができるようにしています。

 カナダやチリ、ニュージーランドなどは、オバマ政権がTPAを持たなければ、最終的な合意はしないという態度を表明しています。かりに“ニセTPA”が成立したとしても、TPP交渉が妥結するかどうかはまったく不透明です。

 安倍首相は日米首脳会談とアメリカ議会演説でTPPとTPA促進を訴え、機能不全のオバマ政権の助っ人を買って出ました。

 国際農民組織ビア・カンペシーナは4月に韓国で開いた東南・東アジア地域会議でTPP反対の国際的連帯を世界中に呼びかけることを決めました。

 TPP推進の悪の権化というべき安倍政権のお膝元である日本で、TPP反対運動の大波を巻き起こすときです。

(新聞「農民」2015.5.4付)
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2015年5月

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