「農民」記事データベース20150420-1162-01

学校給食
秋田・八郎潟町

地元産野菜の活用率 県内1位
給食費の無料化も実現

北嶋賢子町議のリポート

 いっせい地方選挙の後半戦(4月26日投票)では、政令指定都市以外の一般市町村の首長や議員の選挙が行われます。地域住民の暮らしの向上に、自治体がどのように力を発揮できるかが問われています。そんななかで、農民連会員の町議会議員の尽力で、学校給食に地元産の農産物が活用され、学校給食費の無料化が実現した町があります。秋田県八郎潟町です。秋田県農民連会員で、同町議の北嶋賢子さんのルポを紹介します。


給食の野菜作りは生産者の生きがい

耕作放棄地も急速に減少

画像  秋田県八郎潟町は、人口約6300人、世帯数2400戸弱という小さな町です。約3分の1が高齢者ですが、市町村合併せずがんばっています。こんな小さな町ですが、地場産野菜の学校給食への使用率は秋田県内第1位。2012年度からは町内の小中学校の学校給食費の全額助成も実施されています。

 町内の小中学校はそれぞれ1校ずつあり、小学校の調理場で小中学校あわせて約500食をつくり、隣接して建っている中学校にも配食されています。

 使用率最下位に生産者らが奮起

 学校給食に地場産野菜が活用されるようになったのは、6年前に県から地場産野菜の使用率が発表され、なんと八郎潟町が最下位だったことがきっかけでした。

 一方、高岳山麓に畑が広がる高岡地区では、増える一方の耕作放棄地に花や野菜を育てようと、「高岡フラワー&ベジタブル」という会が08年につくられていました。会長は農民連会員の北嶋盛次(私の夫です)です。「最下位」の県発表に驚いた私たちは、さっそく町の教育委員会と話し合う機会を設けました。すると町は「農家の高齢化がすすみ、500食を超える学校給食に、食材を供給するのは無理ではないか。でもやってくれるグループがあれば…」ということでした。

 「へば(そういうことなら)、私たちがやります!」と発奮した私たちは、高岡地区でどんな野菜がどれだけ取れるのかを調べ、十分やっていけると確信し、「高岡フラワー&ベジタブル」の中に給食部会を立ち上げました。部会長は農民連会員の渡部鋼一さんで、発足時の部会員は6人でした。教育委員会や学校と覚書を交わし、10年度の2学期から給食への納品が始まりました。

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給食時の風景(八郎潟町提供)

 町の農業発展に大きな力になる

 現在では、月に2回、献立にそって学校から野菜の依頼が届き、そのつど生産者が集まって、誰がいつ何を出すのかを自己申告で決め、当日の朝、部会長宅に野菜を集めて届けています。学校給食への納入が始まって6年がたつうちに、地場産野菜の活用はぐんぐん伸び、昨年度は23品目を供給するまでになり、かつて「最下位」だった県の発表でも、一昨年は2位、昨年は1位に輝くことができました。

 給食部会の生産者も今では20人に増えています。そのほとんどが60歳代の「団塊世代」です。ちょうど定年を迎えて「さあ、“定年帰農”でもするか」という時に、学校給食の取り組みで町内でも名前が知られるようになっていた「高岡フラワー&ベジタブル」が注目され、仲間が増えてきたのです。今では耕作放棄地も目に見えて少なくなり、収穫の多い品目は市場出荷するまでになりました。

 学校の授業でも食育が進められ、子どもたちからは「おいしい野菜をありがとう」という文集も届いています。こうした子どもたちの声に励まされ、「学校給食の野菜作りは、私の生きがい」と言う生産者も多くいます。学校給食での地場産農産物の活用は、町の農業の発展にも大きな力となっています。

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献立の一例(八郎潟町提供)

 子どものために町長も決断して

 ところが、出荷は順調だったのですが、野菜の代金の支払いが遅れるのです。

 議会で質問したところ、給食は独立採算制になっており、保護者からの未納があると、野菜の支払いが遅れてしまうことがわかりました。私はさらに議会で「給食費が払えなくて、肩身の狭い思いで給食を食べている子どもがいるのではないか」と、学校給食費の無料化を提案し、2012年度からの無料化を実現することができました。

 一部の議員からは無料化を疑問視する声も出ましたが、教育委員会による保護者のアンケート調査でも圧倒的に「無料化継続」を望む声が大きく、「子どもたちの成長のために」という畠山菊夫町長の決断もあって、今年度も2400万円の予算措置が続けられています。地場産野菜活用の地道な取り組みが、無料化の実現につながったのだと思います。

 農家や住民の声届く議会でこそ

 いっせい地方選挙が目前ですが、私たち農家や住民の声が届く町議会であることは、地域の暮らしと農業を守るうえで、決定的に大切だと痛感しています。農民連でも議会請願に取り組んでいますが、紹介議員がいなければ単なる陳情になってしまい、町議会で討議される機会もなくなってしまいます。学校給食の無料化のように、議会で質問し、議論すれば、道が開けることもたくさんあります。これからも地域の農業を守り、住民の暮らしを少しでも良くするために、尽力していきたいと思っています。

 ※八郎潟町の町議選挙は2017年の予定。

(新聞「農民」2015.4.20付)
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2015年4月

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