福島原発被害
なぜ避難住民の『帰還』が進まないのか
―“帰還圧力”のもとで深まる諸問題
《下》
東京経済大学准教授 尾崎寛直さんの講演(大要)
自治体を予算で縛り帰還強制
避難者は“追い出し”“兵糧攻め”
避難者の今の生活の実態を、住まいや医療体制から見てみましょう。
福島県内では現在でも、プレハブの仮設住宅に2万4000人、県が民間の賃貸住宅を借り上げた「みなし仮設」に4万1000人が住んでいます。若い世代では利便性を考慮して「みなし仮設」を選択する割合が多く、また仮設住宅ではあまりに狭くて大家族では一緒に住めないことから、高齢世帯と若年世帯の世帯分離が進んでいます。
そういうなかで、高齢者の介護需要が増大しています。2010年3月と2014年1月で比較すると、福島県の被災自治体では26%も要介護高齢者が増えている。とくに強制避難区域の大熊町で62%、双葉町、浪江町、飯館村で50%以上も増加しており、他の被災県と比べても圧倒的に高い数字になっています。
家族の離散で介護需要が増大
要介護高齢者が増える原因は、一つには長期避難による肉体的、精神的疲労があります。それから大きいのは、避難によって生業を失い、働くことによって保たれていた健康が損なわれていることがあります。避難する前は高齢者であっても多くの人が農業などに携わり、それが喜びや生きがいにもつながっていましたが、家も狭くなりどんどん生活不活発病が進んでしまっているのです。
また、世帯分離で高齢者だけの生活になることで、子ども世帯の助けが受けにくくなってしまい、社会的介護を受けるしかないという状況も広がっています。若年層に「もう戻らない」という人が多いことを考えると、この問題はたいへんなことです。
医療体制も深刻です。浜通り地方では、原発事故で7つの主要医療機関が閉鎖に追い込まれ、病院床数では42%、1132床が使用不能な状況です。さらに医療従事者の流出が激増しており、人材不足が深刻な事態に輪をかけています。
復興計画の名で大規模公共工事
一方、こうしたなかでも「帰還圧力」は迫ってきています。とくに安倍首相誕生後は、福島復興再生特措法がつくられ、早期帰還・定住プランが策定され、さらに福島再生加速化交付金が出されて、現地ではいま、ものすごい勢いで公共工事が大盤振る舞いされています。たとえば、政府の復興計画に乗って帰還すると方針を決めた川内村では、道路の拡幅や大きなショッピングセンター、特養老人ホームの建設など、かつてない規模の公共工事が湯水のように流れ込んでいます。
一方で、住民の精神的損害などの賠償は解除後1年で打ち切りになります。仮設住宅の無償提供も打ち切りが進められ、事実上、避難者の「追い出し」「兵糧攻め」が行われています。
つまり、政府のいう「復興=帰還政策」に乗るか乗らないかで、雲泥の差ともいえる支援格差がつけられ、自治体にはその選択が迫られているのです。実際には自治体を予算で縛ることで、帰還が強制されているというのが実態だと思います。
帰還と避難の両方の保障を
「避難するのは自由だが、あとは自己責任で」というのでは、本当の自由とは言えません。兵糧攻めで強制する帰還が果たして幸せなことでしょうか。帰還させるのであれば徹底除染をはじめ医療・福祉の復旧などの“戻れる”条件を満たす必要がありますし、同時に、放射能汚染に不安を抱える人には「避難の自由」を保障する施策が必要だと思います。
(おわり)
(新聞「農民」2015.4.6付)
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