福島原発被害
なぜ避難住民の『帰還』が進まないのか
―“帰還圧力”のもとで深まる諸問題
《上》
東京経済大学准教授 尾崎寛直さんの講演(大要)
「第40回公害総行動の成功をめざす首都圏交流のつどい」が東京都内で開かれ、福島原発事故の被災や賠償問題などを調査・研究している東京経済大学准教授の尾崎寛直さんが、「なぜ避難住民の『帰還』が進まないのか? “帰還圧力”のもとで深まる諸問題」と題して、講演しました。その一部を紹介します。
避難解除の1年後には賠償も打ち切り
帰りたくても帰れない…深まる苦悩
私は原発事故以降、避難指示区域内にある大熊町や飯館村、また徐々に避難指定が解除された区域、はじめから避難区域外とされたいわき市などの調査をしてきました。今日は、避難指示が解除される局面で、どういう問題が起きているかをお話ししたいと思います。
政府の言う「復興政策」とは、「帰還政策」と言ってもいいようなもので、いかに住民を一刻も早く戻し、単に戻すだけでなく「賠償を打ち切」って、“復興”を安上がりにすすめるかというものです。自治体の「帰村宣言」の一方で、住民の方々には「帰還しなさい」という帰還圧力が加えられ、身が引き裂かれるような状況に置かれています。
福島県内では2011年9月末に20〜30キロ圏内の「緊急時避難準備区域」を指定解除したのを皮切りに、避難区域の再編が進められ、安倍政権誕生後は「復興加速化」方針のもと、さらに避難解除の方向が強められています。同時に国は、解除するだけでなく、1年後をめどに精神的損害などの賠償打ち切りをセットに進めています。
今でも12万人が避難生活を送る
しかし実際には、現在でも12万人もの避難者がいます。たとえば2011年9月に指定解除された川内村や広野町では翌年の2012年8月にはこうした賠償が打ち切られています。にもかかわらず、川内村では生活拠点を村に戻したという完全帰村者は約20%の500人たらず、広野町でも完全帰村者は約30%程度で、帰還住民数よりも収束作業に関わる作業員数の方が多いというのが実態です。解除されても「帰れない」「帰らない」という人が非常に多いわけです。
原発被災地は高齢者ばかりに
なぜ賠償金が切られても避難を続けるのでしょうか。広野町の住民意向調査で、「戻る」と答えた人の理由や条件を見てみると、「医療体制や日常生活のサービスが復旧したら」という人が27%、「仮設住宅や借り上げ住宅の無償提供の終了でしかたなく」という人が22・4%でした。一方、「戻らない」と答えた人は、原発事故の未収束や放射能の影響をあげた人が約半数にのぼっています。
また「戻る」と答えた人は高齢者が圧倒的に多く、「戻らない」と答えた人は子育て世代をはじめ比較的若い人でした。これでは原発事故の被災地は高齢者ばかりの地域になってしまい、地域の活力はたいへんそがれてしまいます。こうした傾向は、福島県が行っている意向調査でも同様の結果が出ています。
(つづく)
(新聞「農民」2015.3.30付)
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