2015年は「国際土壌年」いま地球上で進む土壌劣化FAO駐日連絡事務所 ボリコ所長に聞く
2015年は国連が定める国際土壌年です。国連食糧農業機関(FAO)駐日連絡事務所を訪ね、その目的や農業との関わりについて、ボリコ・M・チャールズ所長に聞きました。
健全な土壌維持・家族農業の発展
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国際土壌年のロゴをはさんでボリコ所長(左)と渡邉和眞副所長 |
土壌は、農業、生態系や食料安全保障の基盤であり、地球上の生命を維持する重要な役割を担っています。また、豊かな土壌を維持することは、人口増加に対応するためにも必要で、これを支援することが健全な土壌を保ち、豊かな食料が保障され、安定的で持続的な生態系をつくり出すうえで重要です。
現在、砂漠化や乾燥化の進行により、塩類集積、酸性化など地球上の土壌の33%は劣化していると推定されており、食料安全保障や生態系の面からも危惧されています。従って、土壌劣化の問題を世界中で認識してもらい、それに対応していくための努力を各国に促すものとして大きな意義があります。劣化を防止するための実効ある措置をとってもらうことが重要です。
国際土壌年を定めた目的は、一般の市民や農家をはじめ、国や自治体など行政にも土壌の問題に十分な関心をもってもらい、食料安全保障、気候変動、生態系、貧困の緩和などの問題と関係していることを考えてもらうことです。
さらに、土壌がもっている豊かな資源を持続可能な方法で管理し、その保全のための効果的な政策を実施することを呼びかけ、行政や企業による開発行為に対しても、健全な土壌を維持するための土地管理を求めています。
国際年は、そのときどきの事情や必要に応じて国連総会等で決定されるので、基本的にはそれぞれ独立したものです。しかし、ここ3年間は、国際キヌア年(13年)、国際家族農業年、そして国際土壌年と食料・農業に関係した国際年が続いています。家族農業も土壌も、将来的な食料安全保障のための重要な構成要素だからです。2050年に96億人に増加すると見込まれる世界の人口を養うためには食料を現在の6割増産する必要があると言われています。
家族農業は、金額ベースで世界の食料生産の8割を担っており、開発途上国の小規模家族農業の発展は世界の食料増産には不可欠です。一方で、肥料や農薬の不適切な使用などがもたらす土壌劣化の進行は、農業の生産性を低下させるものであり、放置すれば食料生産にマイナスの影響を与えます。土壌劣化を防ぎ、環境に配慮した農業技術を導入し、家族農業をさらに発展させることが今後の食料生産のかぎとなります。
私の母国はコンゴ民主共和国です。来日して、日本の農村を訪問しましたが、まず驚いたのは、農業に取り組む姿勢です。コンゴ民主共和国は、パパイア、オレンジ、マンゴーなど、果物や野菜は豊富にあり、いつでも、どこでも食べものがありました。一生懸命農業をしなくても生きてこられたのです。
しかし、日本の農家は、生産から販売まで、つまり自分の田んぼや畑のことだけでなく、消費者のお皿のことまで考えて、農業生産を行っています。肥料や農薬をできるだけ少なくし、何をつくれば「おいしい」と感じてもらえるか、何が食べる人にとって健康によいかなどを考えています。
また、自分だけでなく、周りがよくなるよう助け合いながら、そのコミュニティーをよくしようという意識をもっていることに感銘を受けました。
土づくりと稲の成長を観察する農民 |
さらに、地域の伝統的な食料生産をできるだけ残していこうと、都会で働いていた若者が農村に戻って農業を継いでいることもすばらしいことだと思いました。
日本の面積はコンゴ民主共和国の約6分の1ですが、人口は約2倍です。また、地震や大雨など自然災害が多いにもかかわらず、この限られた土地の中で、農業や産業を発展させています。日本のみなさんの技術をぜひ世界に発信してほしいと思います。
国際土壌デーのポスター。土壌は食料の源です |
3人が報告し、公益財団法人農業環境健康研究所の陽(みなみ)捷行(かつゆき)・北里大学名誉教授は、「文化・文明と土壌」のテーマで講演。「土壌はそこに生活している民族の思想・宗教・意識・生活・医療など、その地域と民族の文化・文明・健康に関わっている。地球と人の健康と食料生産にとって、土壌を守ることが必要なこと」だと強調しました。
埼玉県小川町の有機農家、金子美登さんは、「有機農業と土壌」と題して発言。「有機農業の基本は土づくりで、鳥や虫との共存、種苗の自家採種、消費者との提携が求められている」とし、「エネルギーの自給などに取り組み、農業・農村の新たな共同体づくりを求めていきたい」と抱負を語りました。
日本土壌肥料学会の小崎隆・首都大学東京教授は「自然環境と土、そして、私たちのくらし」のテーマで、熱帯多雨林、サバンナ、砂漠など気候に応じた土壌のなかで生活する世界の人々のくらしを紹介しました。
[2015年1月]
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