「農民」記事データベース20141124-1143-01

TPPまたまた合意できず
反対運動が追いつめる

(秘密交渉の裏で進む危険な事態)


総選挙でTPPに対する断固たる審判を

 オバマ米大統領が「11月に妥結する」と宣言するなど、鳴り物入りで開かれたTPP首脳会議は、妥結を宣言できないままで終わりました(11月10日、中国・北京)。しかも、2011年以降、毎年「年末までには合意する」という空約束を繰り返したあげく、今回は、ついに達成期限も示せなかったのです。

 これには二つの側面があります。一つは、国際的な反対運動と参加国政府の抵抗の強まりの前に、TPP交渉が「暗礁に乗り上げたWTO(世界貿易機関)ドーハ・ラウンドの二の舞い」(産経新聞) になる可能性があるという行き詰まりの側面です。

 もう一つは、日本政府がアメリカの圧力に屈して大幅に譲歩するとともに、アメリカと日本が手を組んで参加国に圧力をかけて交渉を進めているという危険な側面です。首脳会議声明が「過去数カ月の交渉の大きな進展」によって「終局が明確になりつつある」としているのは、行き詰まりを隠す強がりの面もありますが、秘密交渉の裏で危険な事態が進んでいることに強い警戒が必要です。

 WTO交渉の二の舞い?

 国際的な反対運動の高まりを象徴するのは、日本の「連合」も加盟する国際労働組合総連合(ITUC)が11月11日、TPP交渉の秘密主義や多国籍企業の利益本位の内容を批判し、政府に対し「交渉停止」を要求したことです。

 また、世界の中でも異例なほどTPP推進キャンペーンをはっている日本のマスコミが次のように論評していることも、交渉行き詰まりを物語っているといえるでしょう。

 「日経」――「TPPにじむ漂流懸念 新興国冷ややか」と突き放し、「オバマ氏と一緒に沈没はできない」と、交渉離脱をほのめかす東南アジア代表の言葉を紹介。

 「産経」――「日本の交渉筋は、合意が遅くとも来夏までにできなかった場合、『次期大統領のもとで態勢の整う3年後まで交渉ができなくなる。そうなれば交渉は漂流してしまう』と危機感を募らせる」「このまま交渉が長期化すれば、WTOドーハ・ラウンドの二の舞いとなりかねない」と指摘。

 「朝日」――「TPPを歩く」という連載で、交渉に抵抗するマレーシア、オーストラリア、ニュージーランドの財界・NGO・政府の声を紹介。

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11月8日から14日まで行われたTPP反対国際行動週間に先立ち、米連邦議会でTPP反対署名を提出した人々(ワシントンDC)

 日米協議「事実上合意」に?

 甘利明TPP担当大臣は北京で「外からみると、中身が見えないだけに進んでいるかどうか分からないことと思うが、私に言わせれば確実に進んでいる」と記者会見しました。「中身が見えない」のは異常な秘密交渉のためです。

 しかし、首脳会議に提出した閣僚報告が「高い水準かつ野心的な目標」とともに「意味のある市場アクセス」を求めて「実際的、柔軟かつ創造的」に解決策を探ると述べていることを大いに警戒しなければなりません。

 一部報道によると、日米TPP協議は、牛肉関税を38・5%から日豪EPA(経済連携協定)の19・5%を大幅に下回る9%に引き下げ、残る争点は豚肉と自動車に絞られた「事実上合意に近い状態」になっており、来年2月までに大筋合意する可能性が高まっているとされています(テレビ朝日)。

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TPP日米合意の可能を報道するニュース(11月13日、テレビ朝日から)

 また、アメリカ農務省は10月末、TPP交渉が妥結した場合の試算を公表しました。それによると(1)12カ国の農産物輸出が85億ドル増え、そのうちアメリカが33%を占める、(2)日本は参加国の輸出増の70%を押しつけられる、(3)日本の輸入が増えるのは米、砂糖、牛肉、(4)12カ国の中で農業生産が減るのは日本とベトナムで、日本の生産減が大きいのは酪農、小麦、牛肉。これを報じた日本農業新聞(11月13日)は「日本農業、一人負け」と指摘していますが、アメリカ農務省の報告は闇の中で進む日米交渉の実態に裏打ちされたものでしょう。

 TPP破たんに追い込む年に

 安倍政権は交渉の真実を隠したまま解散・総選挙に打って出て、選挙中は「国会決議を守る」と宣伝し、選挙が終わればアメリカにとって「意味のある市場アクセス」を実現し、日本農業を壊滅させる譲歩に乗り出す危険が強いといわなければなりません。

 TPP反対の運動は、総選挙と来年に持ち越されました。総選挙をTPPに対する断固とした審判の場にするとともに、交渉の行き詰まり状態を見据えてTPP交渉の中止を要求し、来年をTPP破たんに追い込む年にすることが求められています。

(新聞「農民」2014.11.24付)
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2014年11月

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