「農民」記事データベース20141013-1137-01

「欠陥ナラシ」は
セーフティーネットにならない

関連/米政府は日本農民いじめやめろ


過剰米処理に踏み出せ

 9月26日、農水省が「2014年産水稲の作柄概況」を発表しました。それによると、北海道「108」、岩手・茨城「105」など、北日本・関東太平洋側で「やや良」。一方、記録的日照不足に見舞われた西日本では、広島・山口・徳島・香川が「95」になるなど「やや不良」で、全国作況は「平年並み」の「101」となっています。

 加工用米などを除いた主食用米の予想収穫量は約790万トンで、基本指針で示された主食用米需要見通しの778万トンより12万トン上回る予想となっています。

 “幻想”を与えるナラシ「価格換算値」

 農水省は作況と同時に、今回初めて2014年産米の収入減少影響緩和対策(ナラシ対策)の「標準収入額の相対取引価格換算値」なる“奇妙な情報”を公表しました。

 2014年産米のナラシ対策の発動基準となるのは、10アールあたりの標準的収入額ですが、この「この「価値換算値」では、10アール当たりの金額だけでなく、さらにわざわざ60キロ当たりの「換算値」を各県・地域ごと(一部の地域では銘柄別)に示しています。

 これは、「セーフティーネットのナラシが生産者に徹底されていない」(西川農水大臣)として打ち出されたものですが、米価下落分の90%が補てんがされるかのような“幻想”を生産者に与えるものです。

 この「価格換算値」は、農水省自身が「便宜的」な「参考値」としているとおり、(1)包装代や消費税、流通経費込みの金額を大きく示し、(2)価格は下落しても収量が豊作の場合は、実質補てん額が減額してしまう、(3)北海道のように米以外に麦・大豆など、多品目の生産を行っている産地では、米だけのナラシ計算では実際の補てん額が算出できないなど、ナラシの仕組みを無視した無意味な「情報」であり、生産者や行政・農協関係者にも混乱を招くものと言わざるを得ません。

 2014年産米は農協の概算金は前年比マイナス2000円〜3000円。市場での取引価格も全農の「相対基準価格」より1500〜2000円前後下回っているのが実態です。この26日に公表した「価格換算値」が、米価下落対策を求める生産者に対する「米価が下がってもナラシで補てんがあるので、隔離対策は行いません」という回答だとすれば、とんでもありません。

 欠陥ナラシの実態は

 「価格換算値」はナラシのPRとしてもお粗末な「絵画商法」のパンフレットのようなもの。

 ナラシの建前は「減収の90%補てん」ですが、90%補てんのうち生産者の「拠出」が4分の1あるため、農家が手にする実質補てんは約68%になります。また補てんされても対象農家は戸別所得補償を受けていた百十数万のうちの約7万経営体だけで、水田面積の4割しかカバーできません。

 しかも、ナラシの資金造成は、収入減少率10〜20%を前提にして農家と政府が拠出しており、20%以上の減収にも対応できません。

 さらに、今年度限りの生産者の拠出なしの「ナラシ移行のための円滑化対策」(戸別所得補償を受けていてナラシ未加入の農家が対象)は、農家の拠出金がないことから「国費分相当の5割を交付」となっているため、減収額の約34%の補てんと想定されます。これでは実際の減収額とはほど遠い“スズメの涙”の金額になることは明らかです。

 また、2014年産米の低米価が放置された場合、2015年産に適用される標準価格の算定に、2014年産か2010年産のいずれかの相対取引価格が適用されるため、今年産の標準価格はより下がることは避けられません。“価格が下がり続けなければ補てんされない。補てんされてもごくわずか”のナラシは、到底、セーフティーネットにはなりえません。

 地方で下落対策要求意見書次々

 緊急対策としての過剰米の市場隔離対策は不可欠です。「米価変動補填(てん)交付金」の復活や、生産費を基準にした岩盤対策の復活・強化が求められます。国が価格と需給に責任をもつ米政策に抜本的に転換することが不可欠です。

 各地の地方議会で、米価下落対策を求める意見書の採択が相次ぎ、首長からの要請も広がっています。自民党農林関係合同会議でも、「(農家の)絶望と自民党農政に対する激しい怒りを感じている。」(10月1日付日本農業新聞)など、米価下落対策を求める声が反映され始めています。

 この間の運動が政府与党を動かしはじめています。米価対策は全ての農民が一致できる課題。さらに国民的な運動で政府を追い詰めましょう。


米政府は日本農民いじめやめろ

アメリカ農民団体
日本の農家との連帯訴え

 「アメリカ農民は日本農民を支持する」「アメリカ政府は日本農民いじめをやめろ」――TPP日米閣僚協議が行われた米通商代表部(USTR)前で、アメリカの農民団体が9月24日、日本語で書かれた横断幕を手に、日本の農家との連帯を訴えました。

 訴えたのは「全米家族経営農民連合」(NFFC)。ビア・カンペシーナ加盟組織で、農民連とは1999年にシアトルで会談して共同声明を出した間柄。

 NFFCのキャサリン・オザー事務局長(写真・左)は「貿易で利益を得るのは業界や輸出業者だ」と指摘。低価格の農産品を輸出することは「米国と相手国の農家双方の力を弱める」と指摘しました。

(新聞「農民」2014.10.13付)
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2014年10月

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