TPP交渉難航、
漂流の可能性を浮き彫りに
首席交渉官会合、日米間協議おわる
7月5日から12日までカナダで開かれていたTPP首席交渉官会合と、15〜16日にワシントンで開かれた日米2国間協議が終わりました。
首席交渉官会合は「困難な問題から逃げており、成果を得られるとは誰も期待していない」(アメリカの貿易専門紙「インサイドUSトレード」)と報道された通り、合意が困難な問題をすべて棚上げにしました。日本政府関係者は、次のように弁明しています。
日米農産物協議を担当する大江首席交渉官代理は「霧が晴れてきて、一時は見えなくなった頂上が見え始めた」と述べる一方、「隔たりは大きく、互いに譲歩して距離が縮まっているということではない」と付け加えました(7月15日)。
鶴岡首席交渉官も「大きな進展があった」と言いながら、「まとまったのは問題がなかった分野。難しい問題になるほど最終的な決断をするのは容易ではない」「今後、困難な課題が解決していくという見通しは立っていない」と述べました(7月12日)。
共通しているのは、国民向けには秘密交渉の陰に隠れて「交渉は前進している」と宣伝する一方、アメリカの理不尽な圧力のもとで交渉が難航していることも告白せざるをえないということです。
「年内妥結」は無理難題
甘利TPP担当大臣は「越年すると、アメリカが大統領選モードに入り、交渉どころではなくなってしまう。そうすると、交渉は新しい大統領の下でということになる」として、「12カ国首脳が年内の妥結に向けて最大限努力するという共通の認識を持つことが大事だ」と強調しています(7月15日)。
こういう思惑からささやかれているのは、11月4日のアメリカ中間選挙と11月10〜11日のAPEC(アジア太平洋経済協力)首脳会合の合間にTPP閣僚会議を開き、その後TPP首脳会合を開いて年内妥結にもっていくというスケジュール。議会とアメリカ財界の反発をかわすことがねらいです。
しかし甘利大臣によれば「年内妥結には、いわゆる大筋合意ではなく、議会に提案できるような精緻(せいち)な合意が必要」というわけですから、アメリカの都合だけを考慮したこのスケジュールは、「針の穴にラクダを通す」(聖書)ほどの無理難題です。
いまこそ交渉から脱退を
もちろん、今後、どんな巻き返しがあるか、油断はできません。しかし、アメリカ国内の政治動向はすさまじい状態です。
アメリカでは憲法上、通商交渉の権限は議会にあって大統領にはありません。大統領はTPA(貿易促進権限)法が成立して初めて、議会から交渉を行う権限が与えられます。これがない限り、議会は長い交渉の末にまとまった貿易協定を勝手に修正することができます。
通商交渉を所管する下院歳入委員会の野党・共和党委員全員(23人)は7月17日、フロマン通商代表に書簡を送り、TPA法が成立する以前にTPP交渉を妥結するというオバマ大統領の方針に真っ向から反対する態度を表明しました。
昨年11月には民主党下院議員の75%がTPAとTPPに反対の態度を表明しています。これに加えて、今度は共和党委員全員が、農産物の全面自由化と自動車の「市場開放」に抵抗する日本を交渉から排除することを要求し、自由化を含まないTPP合意は、議会に到着したとたんに廃案になると脅しているのです。
安倍首相は、オバマ大統領と合意すれば何でもできると思い込み、「聖域」5項目に踏み込んだ譲歩案をアメリカに示しています。しかし「11月の中間選挙で上下両院とも共和党が制することとなれば、これまでの交渉内容が一から再吟味されるおそれがある」のが冷厳な事実です(全中「国際農業・食料レター」、7月8日)。
すでに“死に体”化し、憲法上まともな権限がない状態で交渉を牛耳っているオバマ政権に追随するのをやめ、安倍政権は今こそ交渉から脱退すべきです。
(新聞「農民」2014.7.28付)
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