ADR(原子力損害賠償紛争解決センター)を活用し
全面勝利の和解かちとる
原木シイタケ生産者
(長野県農民連会員)
福島原発事故から3年以上たちますが、いまなお原発事故被害への賠償は全面賠償とは程遠い状況が続き、各地の農民連で賠償請求運動のたたかいが続いています。こうした運動のなかで、長野県農民連会員で、原木シイタケの生産者が昨年11月に原子力損害賠償紛争解決センター(ADR)に仲介を申し立て、今年6月、全面勝利の和解を勝ち取りました。
東京電力は、2012年7月に原子力損害賠償支援機構から1兆円の出資を受け、賠償の原資がすべて国からの支援となりました。このころから東電は、農民連や被害者との直接交渉で請求内容の正当性を認めたものでも、正式回答の段階になると賠償を拒否するという姿勢に変化してきています。また、さまざまな直接交渉の場面でも「国からの支援を受け、徹底した経費削減を行っている最中であり、完全賠償は過酷な要求だ」として、会社経営を優先し、被害者にはがまんを強いるという姿勢をますます強めています。こうしたなかでの今回の勝利和解は、大きな意義を持つものです。
長野県農民連事務局長の宮沢国夫さんのリポートです。
請求額裏付ける正確な収入・経費データ
東電の反論打ち破る大きな力に
2011年の原発事故直後の5月、長野県農民連にシイタケ原木を扱う業者から「うちが取引先に納入した福島産のシイタケ原木8000本が放射能に汚染されていることが判明した。農民連で賠償請求してもらえないか」と、相談が入りました。さっそく納入先のシイタケ生産者に農民連に加盟してもらい、東電に賠償請求をし、この年の損害についてはほぼ請求額に近い賠償をさせることができました。
3分の1程度の回答
ところが翌年は、原発事故の影響で全国的に原木が品不足となり、8000本必要なところ4000本しか購入できず、原木価格も値上がりしました。やっと仕入れた原木も太さが均一でなく、業者の機械による植菌ができず、植菌作業には家族、親戚総出で2カ月がかかりました。収量、品質も低下してしまいました。
このため、東電に対して、購入した原木の価格高騰分、品質低下による収入減、植菌に要した労務費のほか、購入できなかった4000本の逸失利益分を含めて合計700万円を請求しました。
ところが東電は、「収入減は期待所得率29パーセントで計算する」「かかり増し経費は原木の購入価格が上がった分のみ認める(植菌の労務費は認めない)」として、請求額の3分の1程度の263万円と回答してきました。
その後、具体的な数字を示し、期待所得率29%の不当性や自家労働での植菌の必要性などを繰り返し説明しましたが、東電は、交渉に弁護士を立ち会わせ、私たちの主張を無視したため、昨年11月、ADRに申し立てることにしました。
事実すべて洗い出し
申し立てに当たっては、自由法曹団長野県支部の弁護士の皆さんと懇談。ベテランの弁護士の方に担当してもらうことになり、申し立て後は弁護士を通じてADRの仲介委員とやりとりをしてきました。
ここで私たちが徹底したことは、収入減は「過去の収入実績を明確にして、現在との差を明らかにすること」、経費も「事実をすべて洗い出し」、正確な収入・経費に基づいて主張することでした。そして、収入・経費を正確に示すうえで決定的な力になったのが、「収入は正確に!経費はもらさず」という農民連の税金申告の方針・実践です。
東電は、「8000本の設備だが、実際に使用しているのは4000本だから、経費も減るはずだ」などと反論してきましたが、収入と経費の正確な内容を示すことで、東電のこうした主張を打ち破ることができました。また東電が主張する「期待所得率29パーセント」も通用しなくなり、事実に基づいた所得率38・9パーセントが採用されました。家族総出で植菌した労賃(63万円)も、「種を植えなければ、キノコは出ない」と、「特別な努力」をしたという主張を認めさせました。
こうして、全体では674万円を東電が支払うことで、和解が成立したのです。
担当した弁護士は、「請求額を裏付けるデータは、農民連の長年にわたる納税における分析の経験と力量によって作成できたもの」と評価し、申し立てたシイタケ生産者は、「ここまでこられたのは農民連のおかげ。これから先もがんばっていきたい」と語っています。
たたかい続けていく
今回和解した請求は、2012年に植菌した分であり、まだこれから2013年分の請求が始まります。また、地元自治体が「風評被害」を理由に処分責任を負おうとしないことから、いまだに汚染されたホダ木がハウス内に山積みになっている問題も残っています。
今後も、シイタケ生産者の被害が完全になくなるまで、そしてこうした被害のもとをつくった東電と政府の責任を明らかにし、原発のない社会をつくるまで、福島と全国の皆さんと一緒にたたかい続けます。
(新聞「農民」2014.7.14付)
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