「農民」記事データベース20140505-1116-13

分析センターだより


分析に欠かせないヘリウム
需給のひっ迫で危機的状況も

 食の安全性検査の代表格である残留農薬検査は、検査員の技術はもちろん、化学薬品や特殊な樹脂、そして分析装置と、どれ一つ欠けても機能しません。21世紀のこの日本において、「あ、注文し忘れていた!」なんて間抜けなミス以外でそんなことは起きないでしょう、と思われるかもしれません。ところが、機能しないことが起きるのです。

 いま分析、医療分野、半導体製造業で、未曽有の課題が発生しています。その原因はヘリウムガスです。

 ヘリウムガスというと、皆さんの身の回りではぷかぷか浮かぶ風船に詰まっているガスとしてなじみがあるものです。現在、医療分野や半導体製造、分析分野では、欠かすことができない重要なガスとなっています。ヘリウムは空気中どこにでも存在しますが、たった0・00052%ほどしかなく、空気から取り出すのではとても産業用には採算が合いません。私たちが利用するヘリウムガスは、天然ガスを採掘するとき、副産物として得られるものを利用しています。

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ヘリウムガスを利用して分析するガスクロマトグラフ質量分析計(農民連食品分析センター)

 世界で利用されるヘリウムは、アメリカを筆頭に、アルジェリア、ロシア、ポーランド、カタールのたった5カ国から供給されているだけです。

 日本ももれなくアメリカからの輸入に依存しています。ところが、ここ十数年の間、世界のヘリウム需要を支えるアメリカの天然ガス井戸で、採掘装置の老朽化と不具合が続いてきました。この問題をなかなか解決できずにいるうち、新興国の需要拡大が加わって、みるみる世界的に供給量が綱渡り状態に陥ってしまったというわけです。

 この危機的状況は相当なもので、あのディズニーランドも風船を配るのを止めなければいけなくなるほどです。私たちの分析現場で使用しているヘリウムガスも値上がりに天井が見えません。さらに昨年秋からは、注文制限まで始まっています。

 アメリカ依存を解決するため、期待を受けて稼働したカタールのヘリウム井戸もまだ十分な供給量に至っていません。そんな状況下、さらに事態を深刻化する事態が発生しました。ウクライナ情勢です。

 経済産業省によると、重要なヘリウムガス供給国の一つ、ロシアで起きたウクライナ情勢の混迷が、供給に影響を与えるとしています。このままいけば、2020年までに世界のヘリウムガス供給能力は需要の22%を下回る危機的状態に陥るかもしれない、と見積もっているようです。

 食の安全に関わる分析分野では、ヘリウムガスを利用する質量分析計の稼働が欠かせません。これ以上、供給がひっ迫すると、医療分野への供給に限られ、分析分野には回されない事態になり、検査ができなくなってしまう可能性が起きてきます。資源の豊かではない日本において、輸入に依存する資源の供給変動がどれだけ影響力をもつか、そして世界の治安が人ごとではないことを考えさせられるものです。

(八田)

(新聞「農民」2014.5.5付)
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2014年5月

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