日米首脳会談でTPP合意先送り
TPPを追い詰める大運動を
発展させよう
関連/TPP反対いっせい行動
オバマ大統領は日米首脳会談後の記者会見で「TPPはアメリカの企業利益のためだ。日本経済の特定の業界――農業と自動車産業は歴史的に市場開放が制限されてきた。今こそ問題を解決すべきときだ。日本が21世紀にさらに前進したいのなら既存の障壁を打ち倒すべきだ」と言い放ちました。高級寿司屋や宮中晩さん会での「おもてなし」、「最高の日米同盟関係の樹立」など、歓迎ムードが演出されるなか、オバマ大統領の言動は、きわめて高圧的なものでした。
4月24日に行われた日米首脳会談は異例ずくめでした。4月だけで42時間に及ぶ閣僚折衝が行われ、首脳会談はサインするだけという通例とはまったく異なり、共同記者会見でもとげとげしい言葉で対日要求を突きつけ、共同声明は先送り。アメリカ側は日本がTPPで譲歩しなければ共同声明を見送ると牽制したといいます。まるで対立国の首脳会談のようです。
オバマ大統領の離日直前に発表された共同声明では、日米防衛協力指針の見直しや日本国憲法の根幹にかかわる集団的自衛権行使に対する“お墨付き”など、日米軍事同盟の強化策が列挙され、尖閣諸島を日米安保条約の適用範囲だと明記し、安倍政権の懇願にこたえました。
アメリカ側は、尖閣諸島問題と引き換えにTPPでの譲歩を繰り返し求めました。
焦点になったのは自動車と重要農産物
自動車ではアメリカが課している関税(乗用車2・5%、トラック25%)は今後20〜30年維持しながら、日本に対しては安全基準の緩和やアメリカ車の輸入目標の設定を迫りました。ミニマムアクセス米ならぬミニマムアクセス車の押しつけです。「主権にかかわる問題であり、農産物よりも打開困難」(交渉筋)といわれます。
農産物では、日豪EPA(経済連携協定)交渉で国会決議に反して牛肉関税を半減させた安倍政権の弱腰につけ込み、牛肉・豚肉と乳製品の「限りなくゼロに近い関税引き下げ」が波状的に繰り返し求められました。そのやり方は首脳会談直後に開かれた閣僚交渉でも繰り返され「フロマン氏(米通商代表)は24日の協議でも、数百項目ある関税の分厚い要求リストを甘利氏に突きつけ、譲歩を迫った」といいます(朝日、4月25日)。その強引さは、甘利TPP担当相をして「もう1回この担当大臣をやりたいかと問われれば、やりたくない」と言わせたほどです。
アメリカの強引さに劣らず目立ったのは、日本政府の裏切りの姿勢でした。豚肉では、1キロ482円の差額関税を100円に下げる、アメリカが要求するブルーチーズの関税をゼロにする、牛肉は日豪EPA並みに関税を半減するなど、国会決議違反の譲歩案を次々に示しました。
さらに「米、麦、砂糖は守る」という掛け声の裏で、ミニマムアクセスとは別に、アメリカ産の米・麦だけを優遇して関税なしで輸入する枠を新設することを検討しているといいます。
これらはアメリカの圧力に屈した“日米談合”というべきものです。関税引き下げやアメリカ産向けの輸入枠の新設を行えば、オーストラリアやベトナムなど、ほかのTPP交渉参加国からも適用を求める声が出るのは確実で、「最恵国待遇」によって日本は拒否できません。
今後どうなるのか――
共同声明は「TPPに関する2国間の重要な課題について前進する道筋を特定した」と述べる一方、「前進にもかかわらず、TPPの妥結にはまだ作業が残されている」としました。これは、当初画策された無内容な「大筋合意」をうたうことができなかったことを意味するとともに、なお交渉を続けるという宣言です。また、日米の合意不成立を棚に上げて、交渉参加国に「早期の行動」を呼びかけてもいます。安倍首相にいたっては「TPP交渉が妥結していくように他の参加国に働きかけていく、日米がそういうリーダーシップを発揮したい」とはしゃいでいます。
アメリカは5月中旬に首席交渉官会合、下旬に閣僚会合を開くことを画策しています。しかし「2頭の象の争い」を見物してきた交渉参加国がすんなりと応じる保証は何もありません。
一方、アメリカ国内ではTPP反対の世論が3分の2を超え、議会がオバマ大統領に貿易交渉促進権限を与える可能性はますます遠のいています。麻生副総理は「オバマ(米大統領)が国内でまとめきれる力はない」「いま協議がまとまったとしても米国の議会で通る保証はない」とも言い切りました。
私たちが見ておく必要があるのは、“死闘”のような交渉を繰り返しながらも、日本政府が公然と譲歩に踏み切ることができなかったことです。安倍首相はオバマ大統領の面前で「国会決議をしっかり受け止める」と言わざるをえませんでした。「守る」と言わなかったのは大問題ですが、3年越しの国民的運動と国会決議が安倍政権の手足をしばっていることはまぎれもない事実です。
もちろん、秘密交渉のため、今後、どんな密約が明らかになるかわかりませんが、「最悪のヤマ場」は、最悪ではない形で過ぎたといえるでしょう。しかし、5月以降、更なるヤマ場が予想されます。安心せず、手を抜かず、TPPを追い詰める運動を発展させるときです。
TPP反対いっせい行動
飛び入り、涙ながらの訴えも
アメリカのオバマ大統領来日を控えた4月22日、TPP反対を訴える行動がいっせいに行われました。国民の食糧と健康を守る運動全国連絡会(全国食健連)が同日午後、国会前で抗議行動に取り組みました。
農民連は本部をはじめ岩手、群馬、茨城、千葉、神奈川、東京、大阪、奈良、岡山などの都府県から集結しました。
抗議行動には元保育園の調理師の女性が飛び入りで参加。「保育園の子どもたちに、TPPで輸入される危ない食べ物は、絶対に食べさせたくない」と涙を浮かべながら切々と訴えていました。
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国会前でTPP反対を訴える女性たち |
抗議行動後は、衆参両院の農林水産委員の各議員に要請を実施。TPP交渉から即刻撤退するよう求めました。要請に初参加した、東京都足立区の25歳の男性はTPPについて自分で調べ、「ISD(投資家対国家の紛争解決)条項で企業の論理が優先され、国民の暮らしが侵されてしまう」と危惧しました。「もう少しじっくり話を聞いてくれると思っていたが、冷たい反応でがっかりした。紙(智子参院)議員だけは中に入れてくれ、しっかり話を聞いてくれたのでうれしかった」と感想を話していました。
午後6時からは「STOP TPP!! 官邸前アクション」が拡大版の行動を行い、北海道からも大勢の参加者が駆けつけるなど、400人以上が集まりました。
「Aasha―project」のみなさんは北海道から駆けつけました。若い農家やパティシエやシェフなど20人ほどが集まり、秘密保護法や原発廃止の政府要請に参加するなど、「自らを取り巻く問題に具体的に行動していこう」と運動しています。TPPについては、北海道農民連と協力して「世界が食べられなくなる日」の上映を行い、デモにも参加しています。参加者は「経済至上主義自体が間違いだ。都会の『生きる』を支えてきた地方の私たちはTPP断固反対です」と訴えました。
行動に参加した中村岳史さん(39)は「TPPのアクションには初めて参加した。TPPはすべてが大問題だ。医療や金融分野の問題は、郵政民営化の比ではない」と話していました。
(新聞「農民」2014.5.5付)
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