「農民」記事データベース20140421-1114-07

世界の科学者が警鐘

温暖化で食糧・農業が危機に

関連/IPCC報告書の骨子


IPCC(国連・気候変動に関する政府間パネル)
温暖化の影響の新報告書を発表

 「現在、すでに地球温暖化が全大陸と海洋、自然と人間に影響を与えている」――地球温暖化と気候変動に関する科学研究をとりまとめる国連機関「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の第2作業部会が3月31日、最新の研究結果をとりまとめた報告書を横浜市で発表しました。その内容は、洪水や干ばつの増加、食糧危機、極端な気象現象(いわゆる異常気象など)の増加など、驚愕(きょうがく)すべきものとなっています。世界中の科学者たちが、「一刻も早い対策を」と警鐘を乱打しています。

 穀物生産は最大50%減少の予測

 IPCCが報告書を発表するのは7年ぶり。昨年9月に地球温暖化の全体的な現状と展望を明らかにした第1作業部会に続いて、今回の第2作業部会では、地球温暖化の影響と被害軽減策(適応策)をテーマに報告書がまとめられました。

 今回の報告書の大きな特徴は、「地球温暖化が今すでに食糧生産に悪影響を及ぼしており、このまま温暖化がすすめば、世界全体で大きな影響が出る」との食糧危機への強いメッセージが盛り込まれたことです。

 前回の報告書では食糧問題の記述は、わずか数ページ、内容も「2〜3度の気温上昇なら、食糧生産にはよい影響も悪い影響もある」というものでした。しかし今回の報告書では食糧問題の記述は40ページにおよび、ここ数年の食糧価格の高騰は、オーストラリアやアメリカなどの食糧生産地を干ばつなどの異常気象が襲ったことが主な要因になったと分析。はっきりと「温暖化は食糧生産に悪影響」と結論づけました。

 さらに今後の食糧生産についても、生産地の気温が2度上昇しただけで、熱帯、温帯の米、小麦、トウモロコシの生産量が減少し、世界の気温が約4度上がると、世界的・地域的に食糧の安全が脅かされると指摘。人口の増加で食糧需要が増大する一方で、2030年代からは穀物生産量は最大で50%減少すると予測し、現在と同じ勢いで温室効果ガスが排出された場合、2050年以降には被害軽減策の限界も超えてしまう、というきわめて厳しい警告を発しました。

 温暖化の被害が紛争引き起こす

 報告書では、食糧問題以外にも、温暖化の危険性を次の8分野(食糧・農業分野を含む)にわたって予測しています。

 (1)海面上昇や高潮による低地や島しょ国での被害
 (2)洪水による大都市部での被害
 (3)異常気象で電気や水供給といったインフラ機能が停止する危険性
 (4)熱波による死亡や健康被害
 (5)気温上昇、干ばつなどによる食糧供給システムの崩壊。とくに貧しい人々の食料安全保障が脅かされる危険性がある。
 (6)水不足と農産物の減産による農村部(とくに半乾燥地帯)の経済被害
 (7)漁業を支える海洋生態系の損失
 (8)自然の恵みをもたらす陸域や河川・湖沼の生態系の損失

 報告書では、温暖化のこのような影響が、内戦や紛争などを引き起こす可能性にも初めて言及しました。

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IPCC第2作業部会の報告書作成に協力した世界の科学者たち

 4度上昇すれば深刻な打撃に

 第1作業部会の報告によると、地球の平均気温は産業革命前から最近までにすでに0・85度上昇し、今のペースで温室効果ガスの排出が続くと、今世紀末には現在と比較して最大で4・8度も上がると予測されています。

 今回の報告書では、初めて今世紀末までの気温上昇が2度に抑えられた場合と、4度になってしまった場合の両方の影響も、比較できる形で示されました。異常気象や食糧生産などいずれの分野でも、4度も上昇すると非常に深刻な影響が予測される一方、2度で抑えられた場合には、影響は予測されるものの、はるかに危険性が低くなることも明示されています。

 IPCCのラジェンドラ・パチャウリ議長は記者会見で、「気候変動の影響は世界各地で表れており、誰一人として影響を受けない人はいない。今後、影響によって何が起きるかは、社会がどれだけ(温暖化の被害に)備え、温室効果ガスの排出を削減できるかにかかっている」(共同通信、4月1日)と強い緊迫感を持って語り、国際社会に一刻も早く行動をとるよう呼びかけました。

TPP・原発依存・再エネ軽視

逆行する安倍政権

 ところが、IPCCのこうした警告とあらゆる政治課題で逆行した政治を行っているのが、日本の安倍政権です。

 4月11日には、民主党政権下で約9万件もの「国民からの意見募集」を経て策定された「原発ゼロ」方針を覆し、原発依存(輸出も)、化石燃料依存を明確にした「新エネルギー基本計画」を、何の国民的議論もないまま閣僚会議で決定してしまいました。同計画には、再生可能エネルギー導入の数値目標も明記されていません。温室効果ガスの削減目標も、実質的に「増加」させる数値目標を掲げて、世界から大きな非難を受けています。

 また、食料自給率39%の日本がTPPに参加して農産物の貿易自由化を推し進めることや、その一方で「攻めの農政改革」で国内農業を破壊することが、いかに国民の食を危険にさらすことになるのかも、今回のIPCCの報告は指し示しています。安倍政権の暴走政治を止めることは、地球温暖化防止と真の食料安全保障にとってもきわめて重要な第一歩となります。


IPCC報告書の骨子
●すでに温暖化が全ての大陸と海洋、自然と人間社会に影響している
●影響は水資源の質と量、生物分布の変化、穀物収量の減少などに表れている
●水資源の争奪が激化する。食糧生産にも悪影響を及ぼす
●紛争などの危険性が拡大。移住が増加する
●早期の被害軽減策と温室効果ガスの削減は、リスクを軽減する
●しかし温度上昇が進むと、後戻りできない影響が起こりやすくなり、被害軽減策の限界を超える可能性がある

(新聞「農民」2014.4.21付)
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2014年4月

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