日豪EPA“大枠合意”に抗議し、
撤回を要求する
2014年4月8日
農民運動全国連合会・会長 白石淳一
一、安倍首相は7日、オーストラリアのアボット首相との首脳会談で日豪経済連携協定(EPA)を“大筋合意”した。国会決議を踏みにじって牛肉関税の大幅引き下げを受け入れたことは断じて容認できない。強く抗議し、撤回を要求する。
一、“大筋合意”は、現行の38・5%の関税を冷凍牛肉で19・5%(協定発効から18年後)、冷蔵牛肉を23・5%(15年後)に引き下げ、関税の引き下げにかける期間を長くするとともに、国産牛肉と競合する冷蔵牛肉の関税を冷凍牛肉よりも高く設定した。
また、事実上の低関税輸入枠(関税割り当て)の設定やオーストラリア産牛肉に特定したセーフガードも導入した。このことをもって林農林水産大臣は「ギリギリの線を確保できた」と、あたかも国内産牛肉への影響が回避されたかのように発言しているがとんでもない。
もともと、WTO(世界貿易機関)スタート時点の牛肉関税は50%だったが、ずるずると引き下げて今日に至ったのであり、これ以上の関税の引き下げは許されない。初年度の冷蔵牛肉の輸入枠を2012年の11万6000トンから13万トンに大幅に増やし、さらに10年かけて14万5000トンまで増やすとしているように、牛肉の輸入量は確実に拡大される。関税引き下げでオーストラリア産牛肉の価格が下がれば、競合する乳用種を中心に国内産牛肉の価格低下は必至で、牛肉相場全体に波及する可能性も高い。
一、日豪EPA交渉は、2007年4月から12年6月までに16回の交渉を行ったが合意に至らず中断していた。交渉に先立って自民党は米、小麦、牛肉、乳製品、砂糖などの重要品目を協定から外し、再協議とすること、万一、わが国の重要品目の柔軟性について十分配慮が得られないときは交渉の中断を含め、厳しい姿勢で臨むことなどの決議を行い、衆参の農林水産委員会も同様の決議をあげている。決議があったから、関税の撤廃・引き下げを強硬に要求するオーストラリアとの交渉がまとまらずに中断していたのである。
今回の交渉再開にあたって、安倍首相、林農水大臣をはじめ、自民党幹部も国会決議を順守して交渉にあたることを繰り返し約束してきた。
国会決議と“大筋合意”は断じて相いれず、国民への背信行為であり、許されない。
一、安倍内閣が日豪EPAの“大筋合意”を急いだのは、4月下旬のオバマ大統領の訪日を前に難航しているTPP交渉を促進させるためで、日豪EPA協定をテコに、アメリカに重要品目の関税で譲歩を迫るためと指摘されている。
しかし、今回のオーストラリアとの合意によってアメリカが対日圧力を更に強め、日本はますます厳しい状況に追い込まれる。アメリカにオーストラリアとの合意を上回って譲歩すれば、オーストラリアの要求もエスカレートしかねず、今回、協定の対象から除外された米、主食用小麦、粗糖、乳製品(バターや脱脂粉乳などの国家貿易品目)などの自由化も迫られかねない。これでは重要5品目も単なる交渉の駆け引き材料にすぎなくなり、譲歩の連鎖を生む最悪の選択である。
一、日豪EPAは“大筋合意”したとはいえ、協定の調印はこれからであり、発効には国会批准が必要である。農民連は、安倍内閣の暴走と裏切りに断固反対し、日豪EPAの発効阻止と、TPP交渉から撤退を要求し、広範な国民諸階層と共同したたたかいに全力をあげるものである。
(新聞「農民」2014.4.21付)
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