小規模家族農業を見直し
発展させる農政へ転換を
CFS専門家ハイレベルパネル報告書作成に参加した
関根佳恵さんに聞く
世界食料保障委員会(CFS)専門家ハイレベルパネル(HLPE)の報告書作成に参加した立教大学助教(4月から愛知学院大学経済学部専任講師)の関根佳恵さんに話を聞きました。
転換点は08年の世界的食料危機
今年が国際家族農業年に定められていることにも表れているように、世界ではいま、家族農業を再評価する大きな動きが強まっています。2010年ごろから国連食糧農業機関(FAO)や国際農業開発基金(IFAD)などの国際機関が次々に家族農業・小規模農業の社会的役割を見直し、政策を転換してきているのです。EU(ヨーロッパ連合)からも昨年、家族農業がEU農業の基礎であるとの声明が出されています。
実は国連でも長い間、規模拡大や多国籍企業との取引の促進などの開発主義が支持されてきました。しかしこうした開発主義のもとで、資源枯渇や環境問題が顕在化する一方、小規模農家が土地から追い出され、貧困が深刻化しました。また貧困と飢餓の撲滅を目指す国連ミレニアム開発目標も達成できないことも明らかになっていました。
転換点になったのが、2008年の世界的な経済危機・食料危機です。行き過ぎた新自由主義政策や経済効率優先の社会システムに警鐘が鳴らされるようになりました。またWTOや最近ではTPPなど貿易を自由化する動きが強まるなかで、各国が食料・農業政策を自分たちだけで決められない、食料主権が奪われる事態も広がっています。こうしたことへの反省が、小規模家族農業の見直しというパラダイムシフト(社会の規範や価値観が、劇的に変化すること)ともいえる大きな方向転換に結び付いているのです。
先進国や新興国重視する動きも
日本ではよく「国際競争に備えるために、農業経営の大規模化が必要だ」というような議論があります。しかし世界的に見れば、世界の農業経営体数の73%を1ヘクタール未満、85%を2ヘクタール未満の小規模農業が占めています。さらに世界の貧困層の70%が農村に住み、そのほとんどが家族経営の小規模農業に従事しているわけですから、「小規模家族農業が世界を養っている」と言えるのではないでしょうか。
またこうした家族農業による食料生産を、先進国や新興国でも重視する動きが強まっていることも大切なところで、食料自給率が低く、潜在的な“飢餓リスク”を抱える日本にとっても、大きな課題が突きつけられています。
CFSの報告書では、小規模家族農業が食料生産だけでなく、国土保全、生物多様性の維持、文化伝承などでも大きな役割を担っていることも、明らかにしています。とくに経済危機で失業率が高まるなかで、小規模農業の雇用調整力は重要な役割で、工業化された大規模経営に比べてもはるかに雇用創出力もあり、人口扶養力も高いものがあります。小規模農業は石油などの資源依存度も低く、環境への負荷も小さいと言われています。こうした背景から、08年の経済危機・食料危機以降、こうした小規模家族農業の役割を改めて見直すことで、この世界的危機を乗り越えようとする機運が広がっています。
世界の潮流に逆行の安倍政権
こうした世界の大きな潮流から見ると、安倍政権のTPP参加や大規模化一辺倒の「攻めの農政」といった方向は、まったく逆行しています。世界から取り残されているのです。
先進国では経済発展とともに農家数が激減し、労働節約型の農業技術を高めることで農家数を減らし、大規模化することこそが「農業の発展」だというのが、これまでの経済発展モデルでした。
しかしCFSの報告書では、現在、経済成長著しいブラジルやインドでは、農家数が増える一方、経営規模は小さくなるか、変わっていないことに注目して、これまでとは違う「発展経路」があることも示唆しています。つまりこうした「規模拡大が経済発展」という考え方こそ、転換が求められているのです。
とくに日本は中山間地域が多く、大規模な企業的農業でも国際競争に勝てるのは平場のごく一部だけです。CFSの報告書を日本の現状に引きつけて考え、小規模家族農業を発展させる農政にこそ転換していく必要があるのだと思います。
小規模農家が世界的連帯して
小規模家族農業が世界的に見直されているのは、農民連やビア・カンペシーナのような農民運動や、良心的な研究者が粘り強く訴え続けてきた成果でもあります。だからこそこうした動きを、国際家族農業年に定められた今年で終わらせてしまわずに、小規模農家が世界的規模で連帯し、新自由主義的政策に「異議あり」の声をあげていきましょう。
(新聞「農民」2014.4.7付)
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