日豪EPA
オーストラリアに牛肉
関税大幅引き下げ?
ばかげた交渉はやめるべきだ
TPP交渉の遅れを
安倍政権は“TPP交渉の遅れを日豪EPA(経済連携協定)で打開する”と称して、自動車関税撤廃と引き換えに牛肉関税の大幅引き下げに前のめりです。4月7日にアボット首相が来日するのを目前に、3月26日にはロブ貿易相が来日して菅官房長官、林農相、茂木経産相、甘利TPP担当相と会談。さらに日豪首脳会談直前には貿易相が再来日して、大詰めの協議を行う段取りです。
焦点は牛肉関税の大幅引き下げです。日本の牛肉自給率はわずか41%。輸入のうち61%はオーストラリア産で、牛肉生産1位と2位の北海道・鹿児島を丸飲みするほどの量です。
譲歩が“国益”確保?
政府もマスコミも、日豪で“ほどほどの妥協”をして、TPP交渉であくまでも関税撤廃を求めるアメリカに対する牽制球にするという宣伝に躍起になっています。しかし、オーストラリアに対する譲歩が“国益”確保につながるかのような議論は悪質なごまかしです。
第1に、日本政府は現在38・5%の牛肉関税を30%に引き下げるとともに、国産乳用種と肉質が競合する冷蔵牛肉の関税率引き下げを低くする譲歩案を提示していますが、オーストラリア政府の要求は冷蔵・冷凍牛肉の区別なく19%に半減すること。日本側も「20%台への削減も視野に妥協点を探る方針」です。乳用種の価格が下がれば、和牛など高価格帯の牛肉だけでなく、豚肉の価格にまで連鎖的に影響が出ることは必至です。
重大な国会決議違反
第2に、TPP交渉と同様に日豪EPA交渉に対しても、次のような国会決議があります。(1)米、小麦、牛肉、乳製品、砂糖などの農林水産物の重要品目が、除外又は再協議の対象となるよう、政府一体となって全力を挙げて交渉すること。(2)万一、我が国の重要品目の柔軟性について十分な配慮が得られないときは、政府は交渉の継続について中断も含め厳しい判断をもって臨むこと。
「除外または再協議の対象」にするということは、関税率の引き下げを含めて手を付けないことを意味し、協議が不満足な場合は「交渉の中断」をせよというのが国会決議の趣旨です。これに違反し、日本政府側から関税引き下げを提示すること自体が重大な国会決議違反です。
痛くもかゆくもない
第3に、歴代自民党政権は工業製品の輸出拡大の見返りに農産物の輸入自由化を進めてきましたが、今回の譲歩はその繰り返しにとどまりません。オーストラリア国内には、自国資本の自動車会社は1社もなく、フォードやゼネラル・モーターズ(GM)、トヨタの子会社が生産を続けてきましたが、フォードとGMが生産を中止し、「最後の砦(とりで)」とされたトヨタも撤退を決断。
オーストラリアにとって痛くもかゆくもない自動車関税の撤廃と、牛肉関税の引き下げを取引するなどというのは、愚にもつかない交渉です。
厚顔なアメリカのこと、日豪交渉での譲歩をネタに、さらに譲歩を迫ることは必至です。こんなばかげた交渉はやめるべきです。
(真嶋良孝)
(新聞「農民」2014.4.7付)
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