魚食文化の知恵・技術伝えたい
21世紀の水産を考える会が料理教室
まるの魚を調理して食べよう
「ワー!大きいお魚だねー」「お魚の頭って、デッカイね!」――東京・目黒区緑が丘文化会館の調理室に、消費者の歓声が響きます。この日は、「21世紀の水産を考える会」が主催する「丸(まる)の魚を調理して食べよう!」をテーマにした料理教室。今が旬まっさかり、丸々と太ったブリをさばいて、さあ、おいしい学習会の始まりです。
10キロのブリを手際良くさばく
「皆さん、前に集まってくださーい。ブリをさばきますよ」というかけ声に、ベテランのお母さんから、子どもを連れた家族など定員いっぱいの30人が半円になってブリの載った調理台を囲みます。「現代生活ではブリをまるごと1匹買って、下ろす機会はめったにありませんが、本来、ブリはアラもおいしい、捨てるところがない魚です。今日はアラもブリ大根や粕汁にしていただきましょう」と、調理指導に当たる「日本の伝統食を考える会」の栗原澄子さんが説明を始めました。
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目の前でブリが下ろされ、おとなも子どもも興味津々 |
ブリを下ろすのは、静岡県熱海市の定置網水産会社、網代漁業株式会社の漁師、松尾浩司さんです。「ブリは大きさによって呼び方が変わる出世魚で、10キロ以上に成長したものだけをブリと言います。このブリは今朝、築地市場で仕入れてきたもので、長崎県産。このまるまると太ったブリは、沿岸に住むブリの特徴をよく表しています。外洋を回遊するブリは泳ぎやすいように身が細いんですよ」と説明しながら、手際良くさばいていきます。
ブリ1匹が刺し身に、ブリ大根に…
生きていくのに料理は大切なこと
いちばん前に陣取った子どもたちも、取り囲んだおとなも、みんな興味津々。3枚に下ろされ、松尾さんが頭と内臓を持ち上げると、「うわー、頭、デッカイ!」と歓声が起こりました。
その後は、グループに分かれて、刺し身、カルパッチョ(洋風刺し身)、マース(塩)煮、ブリ大根、粕汁作りに挑戦しました。
知り合いの紹介で、奏太君(小1)、結音ちゃん(4歳)と一緒にこの料理教室に参加した山科千鶴さん、一義さん一家は、「お魚を丸ごと使って、いろいろな料理にできるのは、とても貴重な体験です」と言います。
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料理上手な奏太君と結音ちゃん、お母さんの千鶴さん |
奏太君も、結音ちゃんも幼いながら包丁を上手に使って野菜を切るのには、びっくり。「家でも私がご飯作りしていると、一緒にやりたがるので、手伝わせています。男でも女でも人間が生きていくうえで、料理ができるのは大切なことですから」と、お母さんの千鶴さん。「今日の料理はどれも簡単でおいしくて、家でもぜひ作ってみたいです」と、話してくれました。
輸入ものでなく旬の近海ものを
この料理教室は、イワシ、サンマ、サケ、ブリと1年間に4回、それぞれ旬の時期に開かれており、今年で5年目になります。「21世紀の水産を考える会」の代表理事の山本浩一さんは、「日本近海の豊かな魚種を、旬に、鮮度よく、たくさん食べてもらいたい。でも今は町の魚屋さんもいなくなって、消費者の間から魚の調理技術が消えつつあります。30人たらずの小さな料理教室ですが、消費者にこの魚食文化の知恵、技術を伝え、守りたい」――この料理教室に取り組み始めた思いをこう話します。
「食べもの」の源が自然の恵みであるのは、農業も漁業も同じ。日本の近海では300種を超える魚が取れますが、大手スーパーの流通支配のもとでは、利便性や安さが優先され、15〜20種類程度の魚種しか店頭に並ばない現状が広がっています。「輸入水産物が激増し、旬もない。近海の魚も利用されない。こんな流通では漁業者も減ってしまいますし、消費者にとっても新鮮で、安全な水産物が入手できない事態になってしまいます」と山本さんは言います。
「21世紀の水産を考える会」では、来年度は、旬の魚を詰め合わせた「魚産直ボックス」を取り寄せ、1グループごとに1種類の魚を調理して、持ち寄って食べる“旬の魚を食べ尽くす”料理教室を計画中です。
(新聞「農民」2014.3.10付)
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